藤井菜々子(26=エディオン)が日本女子競歩で初の銅メダルを獲得した。五輪を含めて世界大会で初の快挙。自身が持つ日本記録を15秒更新する1時間26分18秒をマークした。21年からサポートを受けていた元エディオン監督の川越学氏(享年63)が8月22日に脳卒中で急逝。亡き恩師にささげる歩きを見せた。87年ローマ大会で平山秀子が競歩に初出場してから38年。ついに歴史の扉が開いた。
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1歩の差だった。3位で最後の直線に入った藤井は、トレス(エクアドル)の猛追に負けなかった。「絶対にメダルを取る」。その思いで国立競技場のフィニッシュラインへ入った。トレスと同タイムだったが、数センチ差で先着。ついに日本女子初の銅メダルをつかんだ。「大きな1歩を踏み出せた」とかみしめた。
恩返しを込めた歩きだった。競歩を始めたのは高1の冬。左脚すねの疲労骨折を機に、長距離から転向した。高2夏の全国高校総体をいきなり制したが「マイナー種目にいくみたい」と心境は複雑。それを変えたのが8学年上でオリンピアンの岡田久美子だった。同年の国民体育大会で声をかけられて「一緒に世界陸上へ出ようね」と言われたことも。「高校生の自分を気にかけてくれてうれしかった」。だから競歩を続けられた。この日、最後の世界選手権を18位で終えた岡田の首に、銅メダルをかけた。「ありがとう」。うれしそうに言葉をかけられて「最後に恩返しができたかな」と喜びが込み上げた。
恩師への思いもあった。21年からタイム計測や体調管理などのサポートをしてくれた川越さんが、8月に死去。いつもレース前は「大丈夫」と励ましてくれて「お父さんみたいな存在」と慕っていた。それだけに喪失感もあったが「元気で歩く姿を望んでいるはず」と前を向いた。左胸に喪章をつけて臨み、序盤から先頭付近でレースを展開。15キロ過ぎで3位に立ち、最後まで逃げ切った。「川越さんの思いも背負って歩くことができた」と誇った。
日本女子が世界大会の競歩に挑んでから38年。15年北京大会から6大会連続メダルの男子に対し、6位が最高だった。「女子はまだまだと言われてきたけど、私が必ずメダルを取るという思いで練習して、まずは銅メダルを獲得できた。次は金メダルへ歩いていきたい」。思いのつまった銅メダルも、まだゴールではない。その色を金に変えるべく、次の1歩を踏み出していく。【藤塚大輔】
◆藤井菜々子(ふじい・ななこ)1999年(平11)5月7日生まれ、福岡・那珂川市出身。小3から陸上を始め、北九州市立高1年で競歩転向。18年からエディオン。世界選手権は19年7位、22年6位、23年14位。五輪は21年13位、24年32位。趣味はプーさんのグッズ集め。159センチ

