とてもではないが、「どうすれば安心安全に開催できるか」と考え抜いた現場とは思えなかった。

8日、東京・有明体操競技場で開催された新体操のテスト大会を取材した。驚いたのは、取材エリアとなるミックスゾーンが設置されていたこと。体操担当として昨年からコロナ禍での国内主要大会を取材してきたが、選手と報道陣が交わるミックスゾーンは設けられずに、会場にいながらオンラインで試合前後の選手の声を聞くことが慣例化していた。感染症対策で密になることを避け、何より選手のリスクを減らす措置として、暫定的には致し方ないと、制約を感じながらも取材活動にあたってきた。

それが、五輪本番を想定した大会では、それまでの感染対策基準に比べて、段階を下げたようなミックスゾーンがあった。なぜか。この疑問は同エリアで報道陣に対応したスタッフのひと言で判明した。

「本番でもこのような形でやりますので、ご協力下さい」。

「このような形」を解説すると、これまでの五輪での取材と同じ道線が敷かれていた。テレビ→通信社→その他、という流れで選手が話す位置が決められ、国内外の多くのメディアがその区分けの中で希望の選手に質問をぶつけていく。柵越しに聞くのが常で、この日の有明にも同じような柵が用意されていた。IOC、組織委員会はこのコロナ禍でも「従来通り」の取材エリアを作ることに、疑問を感じずにいるのか。だから、いくら国内大会がリモートによる取材方式であっても、五輪は慣例踏襲が先にあるのだと感じた。

違和感だらけだ。かねて、組織委は「安心安全」を強調し、大会運営を模索してきたはずだ。ただ、実際に3カ月を切ったテスト大会の現場に立つと、前例を壊して、何が「安心安全」かを追及した結果は感じなかった。

むしろ、「本番」が絶対視され、それ自体を1度考え直すことに頭が回っていない印象。柔軟性もなく、緊急事態宣言下の東京で開催されている大会であることへの敏感さも欠けていたように感じた。床にテープの目印が貼られ、取材者の立つ位置が離れるように設定され、選手はマスク姿ではあった。ただ、それで十分なのか-。

「どうすれば開催できるのかを考えてほしい」。体操男子の内村航平は昨年11月の国際大会で訴えた。果たして、この日のミックスゾーンの運営は、「どうすれば」を突き詰めた結果なのか。取材側としてはもちろん、対面で選手の姿、声に接することが、よりよい取材につながる。ただ、現状ではリスクもはらむ。オンラインもやむなしと考える。「本番の形式が設定されているから」「テスト大会だから」と言った前提は「安心安全」の足かせでしかない。

聞くと、新体操以外のテスト大会でも、おおむねミックスゾーンが設置されていた。他に選択肢はなかったのか。ミックスゾーンの設置に限らず、さまざまな運営面で硬直化を感じさせる現場は多いのではないか。

直接的に選手と会話を交わす機会を記者の本性として喜ぶ一方で、その施策を試すテストの場であってほしかったという思いが頭をもたげた。【阿部健吾】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)