世界を狙えるビリヤード界のサラブレッドが、仙台市にいる。種目の1つスリークッションを専門とする船木翔太(17)は、9月にスペインで開かれた世界ジュニアスリークッション選手権に、日本勢として唯一出場した。スリークッションはナインボールなどのポケットとは異なり、球に当てて得点を競う種目。父、祖父ともに、同種目の日本を代表する選手という名門一家で育ったが、競技歴はまだ1年半と、今後さらなる成長が見込まれる。将来の夢は、世界選手権での優勝、さらには、オリンピック出場だ。

 初めて同世代と戦った。しかも、世界トップクラスが相手だった。舞台は世界ジュニアスリークッション選手権。日本人で唯一出場し、10位入賞を果たす健闘を見せた。

 国内には同種目を専門とする同年代の選手がおらず、年上と戦う日々を送っている。高校入学を前に家庭教師と遊びで始めたのがきっかけで、競技歴はまだ1年半だ。それでも「我慢と経験が足りず勝ちきれなかった」と8強入りを逃し、唇をかんだ。父耕司さんと敗戦を振り返り、取るべきだった策を伝授された。

 敗戦から学ぶべきことはまだあった。「ジムに行った方がいいよ」。優勝者の韓国代表チョウ・ミンユウ(19)にそう言われた。確かに出場選手の集合写真を見ると、船木は周りより一回り小さい。「スリークッションは握力が強くないと球が走らない」。チョウの握力は何と約80キロだという。リンゴを片手でつぶせるパワーだ。

 船木は中学時代に野球のシニアチームに所属。東アジア選手権に出場した強豪のレギュラーだった。野球をやめてから随分たつ。体が細くなった自覚はあった。そこで、週6日の1日6時間のビリヤードの練習を終えると、5キロのダンベルを片手ずつ5分間振り上げる練習を2セットこなす。30キロしかなかった握力は40キロに増えた。3キロのランニングも欠かさない。

 スリークッションは奥が深い。「ポケットと比べて難しい。わずかなボールの突く点をちょっと下げただけでも(狙う球に)当たらないし、横にずれても当たらない」。ポケットは穴があるので狙いがわかりやすいが、同種目はボールの経路も細かい判断が求められる。だから、経験がものを言う。船木は、その難しさのとりこになり、高校を中退してこの道に進んだ。

 まずは、2年以内に日本選手権を目指す。「まだ雲の上の存在ですけど、父に追い付きたい」。現在、練習で調子のいい時のアベレージは2程度だが、父は昨年30点ゲームで6をたたき出し、日本記録を更新した。「最終的には、父も祖父も出た世界選手権に出たい」と宣言した。

 もっと大きい夢も語った。15年6月、20年東京五輪の追加種目の1次選考結果が発表され、ビリヤードは落選した。「お父さんが出て活躍するかもしれなかった」。祖父は60歳で引退するなど、ビリヤードは第一線で長く戦える競技だ。「競技としていつか採用されるかもしれない。そしたら、親子対決もあるかもしれない」。その日に向け、今は修業の日々だ。【秋吉裕介】

 ◆スリークッション 赤球1個、手玉の白球と黄色い球1個ずつを用いて行う。ビリヤード台には球を落とすポケットはない。手球をキューで突き、2つの的球に当てると1点を獲得する。最後の球に当たるまでに3回以上、四方を囲むクッションに当てなければならない。得点するとイニングが続く。非常に難易度が高く、アマチュアでは総得点数を総イニング数で割ったアベレージが1を超えるのは難しい。世界のトッププロは常時2~3で推移する。通常は30点または40点ゲームで競う。