阿部兄妹が世界の頂点に立った。女子52キロ級代表の阿部詩(18=兵庫・夙川学院高)が決勝で17年世界女王の志々目愛(了徳寺学園職)を下し、全5試合オール一本勝ちで初出場初優勝を果たした。18歳2カ月の阿部詩は、日本女子では93年大会の48キロ級を18歳0カ月で制した田村亮子(現姓谷)に次ぐ若さでの世界一となった。男子66キロ級代表の兄、一二三(21=日体大)も2連覇を果たし、日本柔道史上初の兄妹優勝を果たした。

前へ前へ-。阿部詩は準決勝で世界ランキング1位のブシャール(フランス)をわずか26秒で腕関節を決め、場内を沸かせた。20分後。17年世界王者の志々目との決勝でも準決勝同様に序盤から積極的に攻めた。得意の袖釣り込み腰が狙われても強引に持っていくなど「超攻撃型」の柔道に徹した。延長の末、内股で勝負を決めた。「今年で一番うれしい。自分の柔道をすることだけを考えてそれが出来た。緊張したけど、普通の国際大会と同じで空気にのみ込まれなかった」と、強心臓ぶりで初優勝を喜んだ。

成長の背景には、一二三の言葉があった。4月の選抜体重別選手権(兼世界選手権最終選考)準決勝で敗退した時、「がむしゃらにやるだけでは勝てない。その中に冷静さを持て」と助言され、駆け引きの重要性を学んだ。大学や実業団の出稽古でライバルの志々目やアジア女王の角田夏実と同じ左組みの相手と乱取りや寝技を重ねて対応力を磨いた。柔道スタイルも兄と同じでスピードと強い体幹を生かした豪快な立ち技が持ち味。袖釣り込み腰や大外刈りは兄の技を見て学び、自己流にアレンジした。学んだことは忘れないように「詩日記」と呼ぶノートに書き込んだ。

来春には兄が在籍する日体大に進学する。2年後に「兄妹で金メダル」獲得を実現するため、尊敬する兄の背中を追い、いつかは超える覚悟だ。「まだまだ強くなれる。自分の可能性を信じて、世界に阿部詩をアピールしたい」。18歳の世界女王は歩みを止めない。【峯岸佑樹】

◆柔道で活躍した兄弟、姉妹 90年代の中村3兄弟が有名。佳央、行成、兼三は世界選手権でそれぞれ優勝している。アトランタ・オリンピック(五輪)では3人が同時に出場し行成が65キロ級で銀、兼三が71キロ級で金メダルを獲得した。姉妹では上野雅恵と順恵がいる。70キロ級の雅恵は04年アテネ、08年北京と五輪連覇。63キロ級の順恵は12年ロンドン五輪銅。園田兄弟は、69年世界選手権で兄の義男が軽量級、弟の勇が中量級で優勝。最近では志々目徹と愛の兄妹も活躍している。