東京五輪に向けて盛り上がる日本柔道を「平成の三四郎」が解説します。92年バルセロナ五輪金メダルの古賀稔彦氏(51)が、リオデジャネイロ五輪以来3年ぶりに評論家として日刊スポーツに登場。選手、指導者としての豊富な経験と確かな目で、読者に柔道を分かりやすく伝えます。

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海外の大会とは違った意味で、国内で勝つのは難しい。何度も同じ相手と対戦するうちに「相性」が生まれるからだ。組み手やスタイルで「得意」「苦手」ができる。いかに相手との相性をよくするかは、国内を勝ち抜く上で必須だ。

女子78キロ超級の素根選手は、昨年まで朝比奈選手に3連敗と「相性」がよくなかった。昨年のこの大会で勝ってからは、逆によくなった。素根選手に「勝ちパターン」ができたのだ。

2人の試合は常に「釣り手争い」。右組み(右手で相手の襟をとり、左手で袖をとる)の朝比奈選手と左組みの素根選手は「ケンカ四つ」になる。かつての素根選手は朝比奈選手に上から襟をとられ、何もできなくなっていた。逆に朝比奈選手の右手の上から自分の左手で襟をとることで逆の展開を可能にしたのだ。

もちろん、相手も上から襟をとろうとするから激しい「釣り手争い」になる。ただ、後半になって相手が根負けすると、素根選手が上から襟をとれるようになる。「長引けば勝てる」イメージができあがり、それが結果につながった。世界女王の朝比奈選手との「相性」がよくなったから、素根選手は優勝できた。(一般社団法人古賀塾塾長)

◆古賀稔彦(こが・としひこ)1967年(昭42)11月21日、佐賀県生まれ。東京・世田谷学園高-日体大。一本背負い投げなど切れ味抜群の技で「平成の三四郎」と呼ばれ、92年バルセロナ五輪金、世界選手権3回優勝など71キロ級、78キロ級で活躍した。90年には体重無差別の全日本選手権で準優勝。引退後は代表コーチとして金メダリストを育て、現在は環太平洋大女子柔道部総監督。