国立競技場にラグビーが帰ってきた。早大が明大を45-35で下し、11大会ぶり16度目の大学日本一になった。相手有利の下馬評を覆す前半31-0で滑り出し、後半は2連覇を狙った明大の反撃に苦しみながら逃げ切った。

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かつての国立には魔物がいた。私も試合で何度も襲われたことがある。新しい国立も同じだった。普段とは違う特別な場所。魔物はわずかな心のスキ、あきらめ、おごりを魔物は逃さない。背伸びせず当たり前のことを謙虚にやることでしか、勝利はつかめない。

明大は襲われた。開始直後、不運な判定もあって先制トライを奪われた。まさかの失点に、選手は浮き足だった。早大の出足に受け身になり、パニックに陥った。12月の早明戦では快勝している。おごりとは言わないが「こんなはずでは」と思ったはず。普段のプレーができなくなった。

慣れない初の会場、6万の大観衆。非日常だからこそ、不測の事態に陥ったときに基本に戻ることが重要になる。ところが、それぞれがバラバラになってパニックは拡散。ハーフタイムまで修正できなかった。

早大はこの40日で変わった。何が起きるか分からない国立だからこそ、基本に戻り、当たり前のプレーに徹した。「勝ちポジ」という分かりやすくシンプルな言葉で、チームは「ワンハート」になった。相手の穴を見つけて数的有利で攻める斎藤と岸岡のハーフ団の発想も見事だった。国立の魔物を退け、女神を味方にしたこの日の早大は、過去最高の強さだったと言ってもいい。(元日本代表)