水泳女子自由形の千葉すず(24=イトマンSS)が、シドニー五輪代表入りをめぐる日本水泳連盟との戦いに敗れた。千葉が代表漏れを不服として訴えた問題で、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)は3日、都内のホテルで聴聞会を開き、千葉の訴えを却下する裁定を下した。一方で、選考基準が明確化していれば訴訟は起こらなかったとして、同連盟に対して訴訟費用の補償として1万スイスフラン(約65万円)を千葉側に支払うよう命じた。裁定後、千葉は「今は引退は考えていない」と目に涙を浮かべた。

午後6時19分。千葉は目を潤ませて会見場に現れた。外国人弁護士2人に囲まれながら、言葉をしぼり出すように話した。「気持ちが整理できていないので、うまく話せるかどうか……」。4月24日に代表落ちが決まってから102日目。5月18日にCASに訴えることを決めてから78日目。27種類の証拠書類をそろえて、聴聞会に臨んだ。朝9時45分から始まり、約8時間後。自分の訴えが却下されたことを直接聞き、肩を落とした。「CASは公平な判断を下したと思います。自分にある力をすべてぶつけました」。少しだけ笑みを見せた。

日本で初の仲裁の結果は完敗だった。4月の代表選考会200メートル女子自由形で五輪A標準記録を突破して優勝したのは、五輪代表入りに値するという主張は退けられた。後輩のために明確な五輪選考基準を残すという希望も絶たれた。「自分のためにというのが一番最初にありましたけど、その次に今後につながったらいいと願ってました」。涙があふれ出るのをこらえた。

選考会の結果は、2分0秒54。昨年の世界ランクにおきかえると、17位と平凡なタイムだった。この日の会見で、水連がランク8位以内の女子選手を「世界と戦える」目安としていたことが初めて明かされた。千葉ははるかに届いていなかった。昨年6月につくった日本記録(1分58秒78)は、昨年のランク2位に相当していたが、一発勝負の選考会の結果が悪ければ、言い訳はできなかった。

千葉の主張が受け入れられた点は、1つだけだった。4月の日本選手権の前に、その具体的な五輪選考基準が明確に示されていなかったことは日本水泳連盟の落ち度とされた。古橋広之進水連会長が口頭で、また機関紙などで「五輪A標準記録を切っても、世界と戦えるレベルにないと選ばないことがある」と伝えていたが、CASから不十分とみなされた。千葉側の訴訟費用の一部が負担された。

千葉は今後について明言を避けた。「一仕事、審議が終わったばかり。落ち着いてゆっくり考えたい」。すでにシドニー五輪後の10月には水泳指導の仕事を入れている。当分は競技者としての生活から離れることは間違いない。1度引退した千葉はシドニー五輪開幕2年前の98年9月16日に練習を再開した。3度目の五輪出場を果たせず、2度目の引退を迎えようとしている。

☆すずに聞く☆

-結果についてどう思うか

すず 急なことで気持ちの整理ができていないが、CASが公平な判断を下したと思います。

-何を一番訴えたかったのか

すず 今後のスポーツ界を支えていく選手が、五輪出場も含め、夢を持てる公平な環境をつくりたかった。

-自分より今後のスポーツ界のことを考えて訴えたのか

すず 1番は自分のためだった。その次に、今後につながればいいと。

-今回の仲裁について、あらためてどう考えているか

すず すごくたくさんの人に応援していただき、支えられた。結果は抜きにして、感謝している。力をすべてぶつけた。結果は受け止めている。

-水連に言いたいことは

すず 同じテーブルに座り(仲裁に)出席していただきありがたく思っている。

-今後については

すず 今は一仕事が終わったばかりだから。落ち着いてゆっくり考えたい。

-引退は考えているか

すず 今は考えていません。

◆CAS裁定要旨

一、CASの仲裁人は、双方の主張を聴取し、五輪代表に選ばれなかったことを不服とした千葉すずの提訴を棄却した。

一、仲裁人は、日本水連の同選手に対する取り扱いに特段の不公平はなかったと認めたが、一方で日本水連が同選手に選考基準を適切に伝えなかったことも認定した。

一、仲裁人は、日本水連が選考方針を公表していれば、今回の提訴は避けられたと考え、日本水連に対し、今回の提訴にかかった費用を部分的に補償するため、1万スイスフラン(約65万円)を千葉すずに支払うように命じた。