元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。11回目は、11日の阪神-巨人戦で明暗を分けたコリジョン(衝突)ルールの適用についてです。

【状況】

 3回表巨人の攻撃。2死二塁から脇谷が中前安打を放ち、阪神のセンター大和がさばいて本塁へワンバウンド送球。捕手原口は滑り込んできた小林誠にタッチし、嶋田球審がアウトを宣告した。

 しかし、巨人高橋由伸監督がベンチを飛び出し抗議。ビデオでリプレー検証した結果、捕手が走路をふさいでいたとし、判定が覆ってセーフとなった。杉永責任審判は「リプレーを見た結果、コリジョンを適用しセーフとします」と場内アナウンス。原口に警告を与えた。1-0リードの巨人にコリジョンルール適用で2点目が転がり込んだ。試合の流れは巨人に傾き、勝利につながった。

 阪神サイドは一夜明けた12日、NPBに同プレーに関し意見書を提出した。セ・リーグの杵渕統括は判定が覆ったことに「捕手は走路を妨げなくても捕球できたと当該審判が判断した」と説明。近日中に金本監督に直接、説明する予定となった。

 試合後のコメントは以下の通り。

【審判側】

「最初から走路に入って立っていた」(杉永責任審判)

【阪神金本監督】

「どういう理由でコリジョンなのか。説明してもらいたいね。バウンドを合わせただけだし、あれがコリジョンと言われたら。納得いってなかったから」

      ◇      ◇      ◇

 コリジョンの定義があいまいだから事は起きた。今の日本のコリジョンルールであれば走路を空けておかねばダメ。捕手も、野手も、走路に足が入っても、触れても、またいでもダメ。

 思い出したのは5月6日の西武-日本ハム戦。暴投した投手の西武高橋光成が本塁ベースカバーに入り、二塁走者浅間が一気に本塁突入。タッチプレーでいったんアウトの判定も走路に高橋光の足があったとして判定がセーフに覆った。

 話を戻す。走路上にいてはいけない現行ルールだから、捕手の阪神原口が走路に入っていたと判断されては、ダメなものはダメ。大和の送球が左右にそれていれば、守備のカテゴリーと見なされ不可抗力で違反と判定されなかったのかも知れない。が、送球はバウンドによる「前後」で、左右にはそれていなかったようだ。

 審判も判定に自信があるのなら、しっかり説明責任を果たすべきだ。アウト、セーフのジャッジ練習はするものの「マイク説明」の練習はしないだろう。口ベタ過ぎる。

 大相撲のほうが物言いがつけば場内にしっかり理由を説明しているのに…。なぜ、野球は細かく説明しない。戦っている以上ファンにとっても、いい知らせと悪い知らせに分かれるのは仕方がない。お金を払ってファンは野球観戦しているのだ。試合後、数時間、あるいは一夜明けて新聞やテレビで判定理由が明かされたところで遅すぎる。リアルタイムで詳しい説明があって当然だと思う。

 現行のルールを嘆いても仕方がない。現段階で、どう対応できるのか考えてみた。1つ。捕手は送球にバウンドを合わせるために下がってはいけない。捕球が難しいバウンドでも、走路をふさぐことのない立ち位置で捕球処理し、タッチにいくしかない。今回の大和のストライク送球のように送球がそれていない以上、結果論だが、捕球で下がる選択肢はなかったのだ。

 以前、このコラムでコリジョンは二塁、三塁ベースのタッチと一緒と極論を述べた。1つ本塁と違うのは、二塁、三塁ベース上はまたいでもいい点か。ただし、二塁ベース上でタッチにいく二遊間の野手はベースから下がらない(大きく送球がそれてアウトしにいかない場合を除く)。捕手も同様、走路をふさがぬようベースより前で止めるしかない。

 本塁補殺を狙う野手も、ノーバウンド送球か、あるいはワンバウンドの場合なら、捕手が動かないくらい正確な送球が必要となってくるということだろう。

 個人的に考えたが提案が2つある。1つ目は「コリジョンルールは捕手以外、適用する必要はない」という提案だ。

 本塁カバーに入る可能性の高い投手、三塁手、一塁手は防具をつけていない。負傷する可能性もあるため、体を張ってタッチにいくケースはあまり見かけない。防具をつけていない前述の西武高橋光成投手らにコリジョンを適用する必要があったのか。

 2つ目。「捕手はタッチにいく場面で、三-本間のラインを隠さず、ホームベースを半分以上開けておけばOK」とすればどうか。もちろん、タッチにいく前の過程で走路をまたいでもある程度は構わない。

 昨季までは、捕手が片膝ついてホームベースを隠しブロックするから走者も体当たりせざるを得ない。個人的に言えば、現役時代は本塁クロスプレーで吹っ飛ばされても文句もなく、捕手の宿命だと思っていたほどだ。「三-本間のラインを隠さず、本塁ベースも半分以上空ける」。その点をビデオ判定すればいいのではないだろうか。

 捕手のけが防止が同ルール導入の本質だ。極端すぎる現行のコリジョンは改善の余地が多分にある。

 審判も、選手側もコリジョンに対し意思統一されていないように見えた。定義があいまいだと思ったので、個人的に前述の「絶対基準」を2つ提案してみた。

 ルールは運用されれば絶対だが永遠ではない。かつて2段モーションが厳しくルールで取り締まられた1年目は厳しかったが、現在ではそうでもない。

 ルールの改正は今季の事例を検証した上で、となるだろうし、今すぐ改善とはいかないかも知れない。ただ、球場のアナウンスで、選手や、ファンにもう少し詳しく説明することは明日からでもできる。まずは「マイク説明」から着手してほしい。

 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)