<センバツ高校野球:大阪桐蔭9-2花巻東>◇21日◇1回戦

 怪物の春が、あっけなく幕を閉じた。第84回選抜高校野球大会(甲子園)が開幕し、花巻東(岩手)が大阪桐蔭に敗れた。「ビッグ3」の1人、大谷翔平投手(3年)が8回2/3を7安打9失点(自責5)。打っては先制本塁打を放ち、投げては最速150キロを計測し、11三振を奪ったが、7カ月半ぶりの公式戦登板で11四死球と制球が乱れた。初戦で注目された「ビッグ3」の直接対決は、2失点完投の大阪桐蔭・藤浪晋太郎投手(3年)に軍配が上がった。

 大谷の握力は、もう失われていた。9回表2死二、三塁。暴投で7点目を献上し、7番水谷には頭部死球。完投目前、173球でマウンドを降りた。指先が黒く焦げるほどの熱投だったが、8回2/3を7安打11四死球で9失点。「実力不足です。やってきたフォームで投げられず、試合中に修正できなかった。出来は2、3割。自分のせいで負けました」。試合後の通路では唇をかみ、引き揚げる藤浪の後ろ姿を見送った。

 良くも悪くも大谷中心だった。まずは4番打者として2回裏にソロ本塁打を放つ。116キロのスライダーを懐深く引き込んでフルスイング。右中間の外野席に高校通算37本目を突き刺した。投げては5回まで2安打6Kの無失点。最速150キロも投げ、ネット裏のスカウト陣も絶賛していた。

 しかし、悪夢のシナリオは始まっていた。5回終了時点で85球。昨年7月の負傷後、実戦で投げたのは79球が最高で「6、7回から握力がなくなってきた」。2-1の6回表に外角高め126キロのスライダーを痛打され、逆転の2点二塁打を浴びる。さらに7回2死三塁から相手の4番田端に左越え2ランをたたき込まれた。高校入学後、公式戦で本塁打を浴びるのは初めて。これも、打たれた球は決め球スライダーだった。

 間に合わなかった。公式戦の登板は昨年8月7日の甲子園1回戦(対帝京)以来、227日ぶり。左座骨の骨折、スタミナ不足に加え、フォームも理想とかけ離れていた。1月に投球再開した時、佐々木洋監督(36)は目を疑った。腕が後ろに入りすぎ、踏み込む足がインステップ。美しく、しなやかだったフォームが、長すぎたブランクで見る影もなかった。高校入学後に矯正した、中学時代の我流の型に戻っていた。この試合も、悪癖のインステップが出た終盤に力尽きた。

 決め球のスライダーも「再矯正の中で横投げになってしまう」(佐々木監督)と禁止され、今月8日の練習試合で解禁したばかり。左座骨も、実は完治していなかった。2月下旬のエックス線検査。骨が完全にくっついていなかった。本人は「痛くない」。しかし再発の危険はゼロではない。大会前、追い込み切れなかった理由の1つになった。

 「負けた実感がない。もう終わったのか…」。注目された藤浪とのビッグ3決戦は予想外の大差に終わった。まだ夏はあるが、切り替えられない。誰よりも結末が信じられないのは、大谷自身だった。【木下淳】

 ◆2ケタ奪三振で2ケタ与四死球

 花巻東・大谷は11奪三振、11与四死球。延長戦を除き1人の投手が奪三振、四死球ともに2ケタは、98年寺本四郎(明徳義塾)が2回戦の京都西戦で11奪三振、10四死球を記録して以来、大会14年ぶり。