第86回選抜高校野球の選考委員会が24日、大阪市内で行われたが、静岡県勢は2年ぶりに出場を逃した。だが、県内にはプロのスカウトが視線を注ぐ好素材がいる。常葉学園菊川の桑原樹内野手(2年)だ。昨年、甲子園で春夏連続の本塁打を放ち、ともに16強入りに貢献した。182センチの体に50メートル6秒0の俊足を備えた大型内野手が、プロ志望を胸に臨む高校ラストシーズン。その思いを聞いた。

 昨年10月のドラフト会議で、桑原の目標が明確になった瞬間だった。有田工(佐賀)の古川侑利投手(3年)が、楽天から4位指名された。夏の甲子園初戦の2回戦で右中間最深部に2ランを放った相手の評価に「プロに入るピッチャーから打てたんだと自信になった」。聖隷クリストファー・鈴木翔太投手(3年)の中日1位にわいた県内で、桑原の視線は別の右腕にくぎ付けになっていた。一層強くなったプロ志望の決意。「12球団どこでもいい」と、目標を口にした。

 2季連続16強入りした昨年の甲子園では勝負強さを発揮し、一気に全国区に躍り出た。センバツ1回戦の春江工(福井)戦では、大会第1号となる中押し2ランをバックスクリーンにたたき込んだ。夏も、データ的に不利だった大トリ出場ながら、2季連続のアーチをかけた。有田工との対戦が決まった時点で宣言した1発を遂行。全国に復活を印象づけたピンストライプ軍団の中で、3年生に劣らぬ輝きを放った。

 高校1号を放ったのが1年秋の東海大会だった。昨夏も県大会準決勝の東海大翔洋戦でチーム唯一の本塁打を記録するなど、大舞台で活躍できる強心臓の持ち主だ。体格にも恵まれ走攻守がそろった左の大砲は、夏の甲子園後の18U世界選手権の代表候補にも挙がったほど。プロのスカウトも「楽しみな存在」と春を心待ちにする。

 その期待に応えるように、桑原の打撃の幅が広がった。昨年11月24日の近江(滋賀)との練習試合では、9回に一時同点となるソロ本塁打(結果は敗戦)。高校通算12本目にして、初めて左翼方向へはじき返した。甲子園で逆方向への本塁打を見せた西武1位の森友哉捕手(大阪桐蔭)の名を挙げ「そういうバッターになりたい気持ちで打った。自分としてはいい形で終われた」と、最後の対外試合で大きな手応えを得た。

 反応の速さと柔らかいグラブさばきで遊撃を任される守備も成長を続ける。唯一の課題である送球は、これ以上ないお手本の背中をを見て学んできた。捕球からの速さなど全国トップクラスの守備力を誇り青学大に進む遠藤康平内野手(3年)とともにノックを受けた日々は、大きな財産だ。「遠藤さんを超えるくらいうまくなりたい」。この前向きな姿勢が、さらなる伸びしろを作る。

 とはいえ、それらの能力はチームの結果につながってこそ意味がある。昨秋の県大会2回戦で御殿場西に5-7で敗れ、3季連続の甲子園を逃した。桑原は1安打2三振。「三振がチームに影響を与えた」と責任を受け止める。そもそも2年生は昨春、覇気がないとして県大会と東海大会で全員ベンチから外された経緯もある。「今までは先輩が何とかしてくれる気持ちがあった」という桑原も、大きな意識の変化が求められる。

 その点も先の近江戦がきっかけになりそうだ。「流れを変えてやろうと思った」結果が1発となった。絶対的な中心選手という立場を受け止めて力を発揮してこそ、野手では同校初となるプロへの道がくっきりと浮かび上がる。【石原正二郎】

 ◆桑原樹(くわはら・たつき)1996年(平8)7月4日、菊川市生まれ。小2から菊川野球スポーツ少年団で野球を始める。中学では小笠浜岡リトルシニアで主に遊撃手としてプレー。182センチ、73キロ。右投げ左打ち。家族は両親と兄と祖母。血液型O。