<巨人3-2阪神>◇8日◇東京ドーム

 巨人阿部慎之助捕手(33)が、セ・リーグの首位打者レースで独走態勢に入った。3連勝を飾った8日の阪神12回戦(東京ドーム)では5回無死一、二塁で右中間フェンス直撃の適時二塁打。打率3割2分はリーグ唯一の3割打者で、2位の同僚、坂本に2分1厘もの大差をつけている。原辰徳監督(53)が「素晴らしい。集中というか、素晴らしいです」とうなる打撃の背景には、阿部独特の「準備」があった。

 阿部は簡単に、バットの真芯に合わせた。阪神加藤の交代直後、初球だった。「監督から『ランナーを気にせず思い切っていけ!』と言ってもらったので」と、迷いないスイングだった。首位打者の適時二塁打が接戦で効いた。

 原監督から信頼をもらう打撃の背景には、阿部の意識変化があった。飛ばないとされる統一球への対策を考えた。「点が簡単に入らない。とにかく塁に出て、つなぐこと。出塁を最優先にする」と、安打や四球を重視することに決めた。

 昨季から練習の取り組みを変えた。今、東京ドーム一塁側ベンチ裏には、練習用のバットが2本、立て掛けてある。1本はオリックス李大浩モデル。もう1本は、アスレチックスのジョニー・ゴームスのモデル。ともに譲り受けた。

 昨季は西武中島モデルも使った。3人は右打ち強打者で、バットの重さは970~980グラム。飛距離を重視し、ヘッドが重いタイプという共通項がある。「重いし操作が難しい。ヘッドを利かせて、6~7割の力で打っておく。難しいことをやっておけば、本番で楽だからね」と、柵越えのない軽打の練習を説明した。

 試合では一転、操作性重視のバットを使う。930~940グラムで細身の形状。重心がヘッドに偏っていないアベレージ打者向けを、10年間も愛用している。阿部のバットは「扱いやすい」と人気で、試合で使わない相棒は後輩に渡す。さらに最近は、一握り余して打席に立つ。「ミート率が上がった」と実感している。

 重いマスコットバットで練習する選手は多い。だが、重さも形状も試合で使用するタイプと真逆のバットで練習する選手は、非常に珍しい。ミート率を上げるための独自の発想は、高い技術の土台があってこそ出来る。成績欄を眺めた阿部は「出塁率がすごいことになってる。四球が増え三振が減った」と驚いた。出塁率4割2分9厘は両リーグ断然トップだ。阿部しかできない「準備」が高打率を支える。【宮下敬至】