<ソフトバンク6-11楽天>◇30日◇ヤフオクドーム

 マー君が“世界記録”に並んだ。楽天田中将大投手(24)がソフトバンク打線を7回3失点に抑え、開幕19連勝。自身のプロ野球記録を伸ばしただけでなく、大リーグに照らし合わせても1912年のルーブ・マーカード(ジャイアンツ)に101年ぶりに並んだ。投球内容に反省は残ったが、新たな快挙を達成。チームの優勝マジックを1つ減らし「25」とした。次回登板は9月6日の日本ハム戦(Kスタ宮城)とみられ、先発濃厚な大谷翔平投手(19)を迎え撃つ。

 十分すぎる援護をもらい、田中がまた勝った。11点をくれた打線に応え、7回3失点にまとめた。19勝は沢村賞に輝いた11年に並ぶ自己最多タイ。さらに、1世紀の時を経て“世界記録”に並ぶ開幕19連勝。岩隈超え、斉藤和巳超え、稲尾超え…。今季手にした数々の“勲章”が1つ増えた。

 だが、試合後の表情は芳しくなかった。ヒーローインタビューで、少し口元を緩ませただけ。「何も良くなかったです。全てですね。全然、良くなかった」と繰り返した。

 「最初から変だな」と感じたズレを修正できなかった。1回、ソフトバンク先頭の中村に四球を出した。昨年8月26日から1年以上続く23連勝中、1回先頭への四球は初めてだった。5回までは0に抑えたが、6、7回だけで5安打3失点。二塁打も3本、打たれた。6回には暴投も犯した。力みからか、左足を踏み出した後、ピョンと跳びはねるシーンもあった。

 それでも、勝った。悪くても、勝ちにつながる投球をした。四球後の1回無死一塁。今宮はバントの構えだったが「3-0では送ってこない。低く投げた」と、初球スプリットを低めに制御した。バスターエンドランを仕掛けられたが空振り。スタートを切った一塁走者の中村は嶋が刺した。敵の次の一手を読んだ。観戦に訪れていた野村元監督は「稲尾は打者がスライダー狙いと見たら、とっさに外して真ん中に投げていた」と言った。鉄腕ばりの危機回避能力を発揮した。

 いつもベストを尽くすから、仲間も助けがいがある。打線は強力援護。二盗を刺した嶋だけでなく、二塁藤田も好守連発。田中は「勝たせてもらいました」と感謝した。グラウンドを離れても、チームの核になっている。24日ロッテ戦に勝ちはしたが、1回に4失点した辛島とは握手しなかった。逆に、前日29日オリックス戦で7回2失点で勝った則本とは、この日、球場に向かうバスの中でがっちり握手し「おめでとう」と祝った。辛島は「しょうがない。次は、握手してもらえるように」。則本は「うれしかった」。行動で、後輩たちを鼓舞している。

 同一シーズンの最多連勝記録の20、プロ野球で5年ぶり20勝投手誕生にあと1つと迫った。「シーズン終盤、自分の投球内容より、チームの勝ちか?」という質問に、「この時期だからじゃない。いつも、自分のことはどうでもいい。チームが勝つことだけです」と語気を強めたのも、田中らしかった。次回は二刀流ルーキー大谷と投げ合う可能性もあるが、「1つ1つ勝っていくだけ」と話す先に“優勝”だけ見ている。【古川真弥】

 ◆ルーブ・マーカード

 1886年10月9日、米オハイオ州出身。チェンジアップとフォークを武器に、当時の契約金最高額となる1万1000ドルで1908年にジャイアンツ入り。11年に24勝、12年は開幕19連勝を含む26勝を挙げて最多勝、13年にも23勝を挙げた。シーズン11回の2ケタ勝利があり、15年にはドジャース戦で無安打無得点を達成。通算536試合(407先発)に登板し201勝177敗、防御率3・08。71年に殿堂入り。

 ▼田中が開幕から19連勝、昨年からの連勝は23に伸びた。シーズン19連勝以上は57年稲尾(西鉄)20連勝、51年松田(巨人)19連勝に次ぎ3人目となり、稲尾のシーズン最多連勝記録へあと1。田中のシーズン19勝は11年に並び最多で、19勝以上を2度は89、90年と連続20勝した斎藤雅(巨人)以来。楽天は貯金20のうち田中で19。1人で貯金19以上稼いだ投手は76年山田(阪急=26勝7敗)が最後だが、田中は貯金をいくつつくるか。