注目の花巻東・菊池雄星投手(3年)を引き当てたのは、西武渡辺久信監督(44)だった。競合した6球団の中で最初にくじを引き、見事に交渉権を獲得した。前日は、花巻の地酒を飲み、この日は花巻東のスクールカラーである紫色のボールペンを携帯して験を担いだ。「すごい運命を感じています」とラブコールを送った。契約金、年俸なども最高条件を用意し、金の卵を迎え入れる。

 一般公開のファンが息をのんで見守ったドラフト会場で、渡辺監督が高々と右手を突き上げた。開封したくじに書かれた「交渉権確定」の文字を誇らしげに披露。「素直にうれしい。菊池君を獲得したい気持ちで球団ぐるみで念じたのが、僕の右腕に乗り移ったんだと思います」。超大物を引き当てた強運に、興奮を隠せなかった。

 6球団の競合。西武の抽選順が最初になり、渡辺監督の胸は高鳴った。「最初に『埼玉西武、菊池』と呼ばれて、もしかしたらと思った。当たりを引いたときは運命を感じた」。半透明な抽選箱に、震える右手を突っ込んだ。まさぐって重なった封筒の中から一通を握った。「くじを交ぜちゃおうとも思ったけど、逃げていく気がした。引いたのは真ん中くらい。一番上でも、一番下でもないと思った」。熱い気持ちの中で、冷静な計算もあった。最初に引いて勝負を決めた。

 三度目の正直だった。2年前のドラフトは長谷部(楽天)服部(ロッテ)と続けて外して2戦2敗。今回は、自宅で見つけた紫色のボールペンを持参し「花巻東のスクールカラーだから」と、お守り代わりにポケットにしのばせた。前夜は球団幹部やスカウト陣と都内ホテルで会食。「彼をはぐくんだ地元でつくった清酒を飲んで身を清めましょう」と、岩手の地酒「南部美人」で乾杯した。店に在庫がなく、従業員が購入のために走り回って探したもの。験かつぎの効果てきめんだった。

 西武は98年ドラフトで横浜高・松坂を引き当てるなど、大物には強い。渡辺監督も83年ドラフトの高卒1位で入団した。菊池には「10年、20年に1人の逸材。ローテを守れる投手として、エース格に育てたい」と言葉に力をこめた。指名した6球団では、唯一の投手出身監督。若いチームを昨季日本一へと導いた指導力で、菊池をスケールの大きな投手に育てる。

 メジャー志望が強かった菊池の心情を思い「アメリカと日本で悩んだ末に、日本を選択してくれた。将来的には日本を代表する投手になってほしい」とも言った。西武は松坂、松井稼をメジャーに送り出した実績があり、海外移籍に理解がある。環境面でも、胸を張って迎え入れられる。その菊池に、ドラフト会場からメッセージを発信した。「雄星くん、運命を感じています。なんの心配もなく、西武ライオンズに入団してください」。【柴田猛夫】