物言いは行司にとって、微妙な判断を強いられるもの。だが力士にとっては、土俵際の粘りは勝利への執念のあらわれでもある。今年の幕内で物言いがついた取組49番のうち、最も回数が多い「行司泣かせで賞」に輝いたのは、6度記録の佐田の海(28=境川)だ。

 夏場所だけで3度。横綱日馬富士から初金星を挙げるなど、取り直しも1年で3度あった。2位の大関豪栄道、幕内安美錦らを抑えての1位。だが「全然うれしくないです」と言い切った。

 体重は幕内で4番目に軽い140キロ。理想はスピードを生かした速攻相撲だけに「攻めて物言いがつくのはツメが甘いから。土俵際で逆転するのは下がっているから。下がっちゃうのは入門したときからの癖」と反省の言葉を並べた。だが、土俵際であきらめなかったからこその記録でもある。入門以来、相手の勇み足で5度も勝利したことがある。現在の幕内力士の中では最多記録だ。

 今年、物言いがついた日は全て勝った。番付は、自己最高位の前頭筆頭まで上がった。同じしこ名で元小結の父松村宏司さんに肩を並べるまで、あと少し。「物言いがつくと不安になります。特に、勝ったと思ったときは…」。来年はすんなりと白星を重ねて、目標の三役昇進をつかみたい。【桑原亮】