宝塚歌劇花組公演を見た。期待の若手である上田久美子の作・演出「金色の砂漠」でトップスター明日海りおが奴隷役を演じることで話題を呼んでいる公演で、和物レビュー「雪華抄」も松井るみの絢爛豪華な舞台装置、人気デザイナー丸山敬太による衣装など見どころいっぱいですが、何と言っても驚いたのが、宝塚歌劇のレジェンド(伝説的な人物)、松本悠里の舞い姿でした。

 松本が宝塚音楽学校に入学したのは1957年と、今から60年前のことです。宝塚では在団する生徒の年齢は未公表ですが、松本は高校卒業後の入学ですから、おのずと年齢は70代と類推することができます。ただ、そう思って、彼女の踊りを見ると、ある意味、驚きです。第2場「花椿」のしっとりとした舞い姿はあでやかで、清浄な色気を放っています。第七場の「桜花夢幻」でも満開の桜の花にも負けない華やかさで、見た目にも、そのかわいらしさに感嘆するほどです

 踊りには定評があります。5歳の時から日本舞踊を習い、中学生の時に名取になりました。高校生の時、同じく宝塚のレジェンドだった春日野八千代(12年に96歳で亡くなった)にあこがれて、宝塚入団を決意。音楽学校の同期には元プロテニス選手松岡修造の母親の千波静がいます。59年に宝塚に入団し、74年には専科に異動しました。

 以降は日本舞踊がある和物レビューには欠かせない存在で、海外公演にもよく参加しています。89年からは歌劇団理事の要職を務め、創立100周年の14年に宝塚歌劇の殿堂が発表された時には、現役生徒で唯一殿堂入りの100人の一人に選ばれました。今回の踊りを見る限り、80代になっても現役で踊ってくれるはずです。【林尚之】