雪組トップスター壮一帆は、サヨナラ公演で悲願の前田慶次を演じ、宝塚音楽学校から20年のタカラヅカ人生を終えるが「集大成とは思わない。最後の最後まであがき続ける」。兵庫・宝塚大劇場公演「一夢庵風流記 前田慶次」「My Dream TAKARAZUKA」は6月6日~7月14日。東京宝塚劇場は8月1~31日。

 前しか見ない-。学生時代に汗を流した剣道から学んだ壮の哲学。ポリシー通り、宝塚ライフの最後まで戦う覚悟だ。

 「(慶次役は)きっと私は抱かれているであろうイメージそのままだと思う。大暴れしたい。集大成とは思っていなくて、東京千秋楽の緞帳(どんちょう)が下りる日まであがき、いい物を発信できるように」

 宝塚名鑑「おとめ」の希望役欄に「前田慶次」と記してきた。歴史、時代小説が好きで、隆慶一郎氏の「一夢庵風流記」も読んだ。

 「いい大人が、いたずらできちゃう心持ち、共感できます。しかも武士で! でも、きちんと武士としての軸、基本がある上で、外れている。そこがすごいと思うし、私もそうありたいと思っています」

 前田慶次は「利益」などとも名乗り、前田利家の兄の養子だった。無遠慮な慶次と実直な利家は相性がよくなく、謝罪すると見せかけ風呂に誘い、水風呂に入れたとされる。豊臣秀吉の茶会にまぎれこみ、猿の面を着けて踊ったという逸話も残る。

 「サムライ言葉、戦国の振る舞いを確認しようと思って、映画『のぼうの城』で主演の野村萬斎さんが舞を披露されていた。私も秀吉の前の場面がある。勉強になった」

 「傾(かぶ)き者」の第一人者、前田慶次とは重なる点も多い。壮も「いたずら好き」として知られる。以前、星組トップ柚希礼音が、壮の目前でサブレを完食する“事件”があった。壮が「いいな」と言うと、あえて柚希はサブレを目前で完食したという。

 「この野郎! って思って、いつか、やり返してやろうって。そしたら、同じサブレが差し入れに! 粉々に砕いて缶カンに入れて、ちえ(柚希)に『太陽王がんばってね』ってメッセージつけてあげました。久しぶりに、やった! って! 2年越しのリベンジ、これで心おきなく退団できます(笑い)」

 慶次には愛馬・松風がいるが、松竹の協力から前足、後ろ足に人間が入る歌舞伎公演用の馬が登場する。

 「松風に乗って(舞台へ)出る場面も多くて、立ち回りもある。乗馬経験もあるので、はねた時の感覚はすごく似ているなって」

 劇団外部の男性が足だけとはいえ、大劇場に立つのも近年は例がない。宝塚には異色キャラで、異例も多い壮のラスト作。ショーでは、宇崎竜童・阿木燿子コンビによる「メモリアルソング」もあり、7月13~14日のサヨナラショーにも“異変”がある。

 「雪組で最後トップとして過ごしたからには、雪組時代の歌だけを歌いたい。ちゃんと本編(ショー)の方で、花組への感謝の気持ちは表現しますので、サヨナラショーは雪1本で!」

 花組、雪組、花組、最後に雪組でトップ就任。サヨナラショーは雪組に絞り、雪組下級生時代の楽曲も希望する。芯は曲げず、いたずらにも全力で、有終を飾る。【村上久美子】

 ◆宝塚傾奇絵巻「一夢庵風流記 前田慶次」~原作・隆慶一郎「一夢庵風流記」~(脚本・演出=大野拓史氏) 関白・豊臣秀吉の時代、前田利家のおい・前田慶次は、前田家から出奔し、京へ向かう。まつ(愛加あゆ)との恋、奥村助右衛門(早霧せいな)との友情を軸に、希代のかぶき者の生きざまを描く。

 ◆グランド・レビュー「My Dream TAKARAZUKA」(作・演出=中村一徳氏) 人が抱く「夢」をテーマにしたレビュー。宇崎竜童、阿木燿子コンビによるメモリアルソングも書き下ろされる。

 ☆壮一帆(そう・かずほ)8月7日、兵庫・川西生まれ。96年「CAN-CAN」で初舞台。花組配属。01年、雪組へ移り「愛燃える」で新人公演初主演。06年花組。12年12月、雪組へ戻りトップ就任。16年9カ月で就任は劇団最長。13年2月「若き日の唄は忘れじ」(中日劇場)でお披露目。3~4月は大阪、東京公演「心中・恋の大和路」で優男の忠兵衛を好演。身長170センチ。愛称「So」。