今月26日で144年の歴史に幕を下ろす伊勢佐木町の横浜松坂屋に設置してある男性デュオ「ゆず」の巨大壁画が、ゆずの2人の出身地の岡村天満宮(横浜市磯子区)に移築されることが16日、正式決定した。壁画は木の板に、アマチュア時代の松坂屋前での路上ライブの様子が描かれたもの。ファンから「ぜひ残して」との要望が殺到していた。早ければ年内に移築が完了するという。

 日曜午後10時になると、横浜松坂屋の前は人でいっぱいになった。デビュー前のゆずの歌声を聞くためにどこからともなく集まってきていた。その記念として、松坂屋では04年12月2日に屋上に縦2・7メートル、横5・4メートルの巨大壁画を設置した。ゆずの2人が卒業した岡村中指定ジャージーを着て、ギターをかき鳴らしながら大声で歌う姿が描かれ、当時の熱気を思い起こさせてくれる。その壁画が、2人の地元、横浜市磯子区岡村町の岡村天満宮に移築されることが決まった。

 横浜松坂屋は経営上の理由と老朽化などで26日に閉店する。今年6月に閉店が公表された際、岡村町に住む商店店主の男性(37)が松坂屋に電子メールを送った。「屋上のゆずの壁画はどこかに移してくれるんでしょうか?」。松坂屋から、後日「現在、移築を検討しております」との返信が届き、しばらく何の反応もなかった。9月になって男性の元に松坂屋から「引き取っていただけますか」と連絡が入った。

 驚いたのは男性だった。「伊勢佐木町モールとか大通り公園に移されると思っていたのでビックリですよ。うちの店じゃ狭くて置けない。そこで、地元の天満宮さんに相談させてもらった」と男性は振り返った。

 9月下旬に始めて相談を受けた岡村天満宮の杉原紳元さんは「私も気になってました。撤去して捨てられなくてよかった」と安心した。実は、ゆずサブリーダー岩沢厚治(32)は同天満宮に隣接する岡村幼児園の卒園生で、ここで習ったピアニカで初めて楽器に触れた。またリーダー北川悠仁(31)とも家族ぐるみのつきあいをしており、杉原さんは「祭っているのは菅原道真公。幼少のころの美空ひばりさんもここで歌を披露している。文化芸能に縁がありますね」と話した。

 移築を決定した松坂屋には連日、ゆずファンからのメールや電話が殺到し、壁画の横に飾りで「ゆずの木」と名付けた植木には「壊さないで」「残して」との短冊がたくさん付けられる現象まで起きていた。

 杉原さんは「ふたつ返事したものの、まさかこんなに大きいとは思わず、どこに置こうか頭を悩ましている」と苦笑いを見せた。壁画を固定する土台などを作り「今年中に公開できるようにして、ファンのみなさんに喜んでいただきたい」と杉原さんは話した。【寺沢卓】