演歌歌手北島三郎(77)が5日、都内で会見を開き、今年の大みそかを最後にNHK紅白歌合戦から引退することを発表した。歴代最多50回目の出場となるラストステージは、代表曲「まつり」で締めくくりたいという強い願望も明かした。ファンや関係者への感謝や、新世代への期待も口にした。紅白以外の歌手活動については「80になろうが90になろうが続ける」とさらなる意欲も見せた。

 吹っ切れたような、晴れやかな笑顔だった。北島は紺のスーツを着て、ゆっくりとした足取りで会見場に現れた。50人以上集まった報道陣から無数のフラッシュを浴び「すごいね。こんなに集まっていただいて…」とつぶやいた後、一呼吸置いて話し始めた。

 「国民的な歌の祭典に、50回。半世紀、本当にみなさんのおかげでここまで来られて、今年も出場を決めることができました。丈夫に生んでくれた親にも感謝です。そのありがとうと同時に、できたら50回を機に(紅白出場に)1本の線を引きたいと思います」

 実は、芸能活動50周年となる11年ごろから、紅白引退の意思はあったという。だが、同年3月の東日本大震災で周年行事などもキャンセルになり「こんな時こそ、みなさんに元気の出る歌を」と翻意。77歳の喜寿で、紅白50回の節目の年になる今春に、あらためて決心したという。

 「本当に勇気がいりました」という決断の裏には、後進に道を譲りたいという思いがあった。「いつまでも先輩面して、壁になっているのもよくない。譲ってやるのも先輩の役目。後輩に道を譲ることで、これから、もっといい紅白になればと思う」。後輩の歌手たちに対しては「自分に酔っぱらってないで、歌を歌っていただいたらいいんじゃないかな」とも。娘婿の演歌歌手北山たけし(39)には「自分で頑張って歌って(紅白に)出てほしい」とエールを送った。

 紅白からは身を引くが、歌手活動は続ける。「北島三郎は、やめません。ビートルズの彼(ポール・マッカートニー=71)も日本に来たじゃないですか。80になろうが90になろうが、まだまだ歩いていきます」と強調。「ただ、この年ですから。走ってもしょうがないから、つまずかないように歩きます。よぼよぼになって倒れそうになった時には、やめますから…」とほほ笑んだ。

 大みそかの最後の舞台では、故美空ひばりさんに並んで歴代最多タイとなる11回目の大トリも確実視されている。「最後は、『まつり』にしてもらいたいな。本当に『まつり』でいきたい。昔の仲間たちや、みなさんと一緒に…」。紅白の「顔」だった演歌界の大御所は、多くの仲間や後輩たちに見送られながら、国民的なステージから去る。【横山慧】

 ◆紅白の「卒業」「辞退」を宣言した歌手

 19回出場の江利チエミさんは70年に辞退を表明。その後も「卒業した」と出演依頼を断った。15回出場の越路吹雪さんも70年以降は辞退。87年に島倉千代子さんが「出場30回の区切りを大切にしたい」、三波春夫さんが「後進に譲りたい」といずれも出場歌手発表前に辞退したが、三波さんは99年に復帰、島倉さんは88年以降5回出場。09年に25回出場を果たした布施明は「若者に出場枠を譲りたい」と勇退を表明した。