30歳のベテランにリーグ戦初出場のチャンスが巡ってきた。今季、鹿島から移籍した札幌GK杉山哲(30)が14日、開幕先発に名乗りを上げた。鹿島では元日本代表の曽ケ端の陰に隠れ、在籍8年で出場したのはナビスコ杯のわずか1試合。昨季、J1昇格の立役者となったGK李らとの定位置争いを抜けだし、悲願のJ1デビューを勝ち取る。

 ベンチを温め続ける日々はもうごめんだ。杉山が虎視眈々(たんたん)と正GKの座を狙っている。ライバル李とペアを組み、シュートを防ぐ練習。セーブに失敗すると声を出して悔しがった。トレーニングから100%全力を出した先にレギュラーがあると信じている。開幕先発について「もちろんそのために準備している」とプライドをのぞかせた。

 越えなければならない壁がある。今季、札幌のGKは4人。その中で昨季、36試合に出場したGK李が1歩リードするが、杉山には李にないものがある。安定感とポジショニング。赤池GKコーチは「インテリジェンスのあるGK。先発の可能性は十分ある」と話す。開幕までの残り約1カ月で先発に名を連ねるつもりだ。

 名門鹿島では曽ケ端の後塵(こうじん)を拝してきた。GKはレギュラーが固定されがちなポジション。そのため、能力はあってもチャンスは巡ってこなかった。昨季はJ1全34試合でベンチ入りしながら出場なし。腐りそうになりながらも耐えた。札幌では一からのスタート。鹿島時代にはなかった定位置争いができることがうれしかった。

 地元熊本での合宿だが、家族や知人とは会っていない。「開幕前のこういう時期だから。オフになったら戻ろうかなと思いますけど」。プロ生活では初の移籍。自らの技術を磨く以外でもやるべきことはある。「みんなとしゃべってプレーも含めて分かってきた」。サッカーだけに集中する日々を送っている。

 鹿島時代は選手寮の寮長を務め、後輩からも慕われる存在。そうした人間性も杉山の強みの1つだ。J1、J2を通じ、30歳を超えてのリーグ戦デビューとなれば異例。「やるからにはそこを目指していく」。遅咲きの花を咲かせるときが来た。【小林明央】

 ◆遅咲きのJ1デビュー

 10年の開幕戦で、J2から昇格した湘南のMF坂本絋司が31歳3カ月で初出場。07年開幕戦には、柏DF蔵川洋平が29歳7カ月で初出場している。ともにJ2出場経験があってのJ1デビューで、未出場が続いてきた杉山の境遇は珍しい。今季昇格した鳥栖のDF木谷公亮(33)もJ1デビューを待っている。