<J1昇格プレーオフ:磐田1-2山形>◇準決勝◇11月30日◇ヤマハ

 Jリーグ史上初のドラマチックな出来事が起きた。J1昇格をかけたJ2チームによるプレーオフ準決勝の磐田(4位)-山形(6位)戦は、1-1で後半ロスタイムに突入。決勝進出には勝利が絶対条件の山形は、右CKのチャンスにGK山岸範宏(36)がゴール前まで上がり、ヘッドで決勝点をたたき込んだ。GKの頭による得点は、Jリーグ発足22年目で初。劇的な幕切れに、スタジアムは騒然となった。

 その瞬間、スタジアムの時間が止まった。DF石川の蹴ったCKが、山岸の頭に当たってゴール左のサイドネットを揺らす。一瞬の静寂のあと、歓声そして聞いたことがないような悲鳴。J史上初めて、GKがヘッドで決めた得点は、値千金の決勝ゴールでもあった。

 山岸

 入った瞬間はまったく見えなかった。ゴールに吸い込まれているとは思わなかった。ボールが静止しているのが見えたら、みんなにつぶされていた。

 1-1の後半ロスタイム。プレーオフは上位チームにアドバンテージがあり、山形は引き分けなら敗退が決まる。土壇場で得たCKに、山岸はゴール前まで上がり、身構えていた。

 山岸

 ドローでは負ける。何も考えずにゴールにいった。ボールの軌道をスラして(頭でこすって流すこと)変えたら、何かが起きると思っていた。

 そして、本当に奇跡が起きた。DF山田は「何が起きたのか分からなかった。まさかキシさんが取るとは…」。味方ですら、想定外だった。

 山岸にとってプロ14年目の初ゴール。「走ればかっこよかったかもしれないが、慣れてないのでうつぶせになっているだけでした。もう1度やってみろと言われてもやれない」と笑わせた。石崎信弘監督(56)は「(練習で)僕はやったことはない。GKコーチは、僕が知らないところでやっていたというけど、練習でも見られない素晴らしいのが入った」とたたえた。

 06年に代表も経験した山岸は、今年6月下旬にJ1浦和から期限付き移籍。J2第19節から24戦フル出場し、天皇杯も準決勝まで全5戦に出場している。チーム最年長として第24節の千葉戦からゲームキャプテンも務め、トップチームの意識をチームに注入した。石崎監督も「リーダーシップを取って選手を鼓舞している。若手のお手本。チームの柱」と認めている。

 山岸も「今年浦和でチャンスがつかめなくて、拾ってもらった感じがある」と感謝。来季は完全移籍が決定的だ。11月29日には、浦和が土壇場で引き分けに持ち込まれ、首位から陥落した。自らのゴールでJ1への道を切り開いた山岸は「まだ何もつかんでいない。千葉に勝ってシーズンを終わりたい」と7日のプレーオフ決勝(味スタ)に気持ちを切り替えた。【佐々木雄高】

 ◆山岸範宏(やまぎし・のりひろ)1978年(昭53)5月17日、埼玉県熊谷市生まれ。市田小スポーツ少年団でサッカーを始める。熊谷高から中京大を経て、01年J1浦和入団。04年に正GKとしてクラブ初のステージ制覇。06年には日本代表にも選出された。14年6月に山形へ期限付き移籍。J1通算137試合、J2通算24試合、ACL1試合出場。家族は夫人と2男1女。185センチ、88キロ。血液型O。<GKのヘディング>

 ◆03年9月イングランド・リーグ杯2回戦・リーズ-スウィンドン戦

 リーズGKロビンソン(現ブラックバーン)が1-2と敗戦寸前の後半45分に、ショートコーナーからの右クロスに頭を合わせて同点。その後、PK戦で4-3とリーズが勝った。

 ◆06年9月メキシコ1部クルスアスル-エストゥディアンテス・テコス戦

 クルスアスルのメキシコ代表GKペレスが、1点を追う後半ロスタイムに右CKをヘディングで同点ゴール。

 ◆08年9月イングランド2部レディング-カーディフ戦

 1点を追う後半ロスタイム、レディングGKフェデリチが、右CKをヘディング。1度はGKにはじかれたが、すぐに右足で押し込んだ。