「下りスト」が有終の美を飾った。山下りのスペシャリスト、日体大の6区秋山清仁(4年)が、昨年の自身の記録を8秒上まわる58分1秒の区間新をマーク。チームを往路13位からシード圏内に押し上げ、最優秀選手賞(金栗賞)を獲得した。卒業後は、OB谷口浩美氏の言葉を励みに、山下りから五輪を目指す。

 苦しい上りの4キロを過ぎると、秋山の前に大好きな下り道が待っていた。「下っている時が、走る中で一番好きなんです」。手元の時計で目標ペースから10秒遅かったが、自然とスイッチが入った。跳ぶように前の選手を次々抜き去る。家族の待つ17キロの函嶺洞門を通るころには13位から7位に。運営管理車の監督や沿道の見知らぬ人から「区間賞いけるぞ」の声が耳に届き、さらに力が湧いた。

 レース前夜、思わず実家の両親に電話した。無心で区間新を出した昨年とは違う重圧を感じていた。「緊張する」とこぼすと、母郁子さんから返ってきたのは「下りに感謝しなさい」という言葉だった。小学生の頃から階段を駆け下りるのが速かった。無名の高校時代、恩師から「フォームが下りに向いている」と指摘されたことで箱根の6区を目指すようになった。ブレーキをかけず、速いピッチで前へ体重を乗せていける走り。大学生になり、学内にあるアップダウンのコースを走る時、いつも箱根の山を思い描いた。「誰が走っても自分が一番(6区を)楽しめる」。3度目の山下り。「今までで1番」の走りが記録につながった。

 バルセロナ、アトランタ五輪の谷口浩美、シドニー五輪の川嶋伸次と日体大の6区はマラソン五輪代表の登竜門。昨年、初めて会った谷口氏からも「ラスト3キロの動きは素晴らしい。マラソンに向いているよ」と背中を押された。「下りからマラソンへ順調に進めていきたい」。実業団の愛知製鋼に進み、偉大な先輩と同じ五輪の舞台を目指す。【高場泉穂】

 ◆秋山清仁(あきやま・きよひと)1994年(平6)11月19日、東京・板橋区生まれ。志村五中、順天高では陸上部に所属。5000メートルのベストは14分17秒73、1万メートルは29分28秒64。169センチ、56キロ。血液型A。家族は両親、弟。俳優の山崎賢人とは幼なじみ。