<スーパー陸上2010>◇19日◇男子やり投げ◇川崎市等々力競技場

 09年陸上世界選手権(ベルリン)男子やり投げ銅メダリストの村上幸史(30=スズキ浜松AC)が、今季自己最高、そして国内自己新となる82メートル52の投てきで2位に食い込んだ。優勝した08年北京五輪銅メダリストのピトカマキ(フィンランド)には及ばなかったが、大会前の連投特訓の成果を示し、11月アジア大会(中国・広州)へ弾みをつけた。

 村上が1つの作品を作り上げるように、ヤリを投げ続けた。導入部分となる1投目は「8・5割ぐらい」で79メートル97。3投目をパスして体力を温存し、4投目に備えた。「1割余裕を残して9割」の力で投じた一投は、80メートルラインを軽々と超えた。82メートル52の掲示に、右拳を握り締める。4月の今季初戦の82メートル49を3センチ超える今季最高、そして国内自己新記録だった。

 「投げた時に84メートルを超えたんじゃないかという感覚があった」。確かな手応えが体に残った。5投目を再びパスして力をため、臨んだ最終投てきでも80メートル83。昨年大会に続き、自身2度目となる1日2回の80メートル超えを果たした。

 「おきて破り」という連投特訓が効果を見せた。6月のフィンランド遠征で精神力の弱さを痛感。敢行したのが根性論を全面に出した練習だった。故障防止のため、これまで多くて週3回の投げ込みだったが、6連投に挑戦。「外国人はあまりやらない。(連投で精神面を鍛えるのは)日本人の特長もあるから」。1日1時間半かけて25~30本を投げた。最後の6本は試合形式で行い、心を鍛えた。

 この日、村上の心は平穏を保った。「ビックリするぐらい落ち着いて、考えながら投てきできた。今までは試技のパスもイチかバチか。今日は3、5本目のパスを次につなげられた」。今までとはまったく違う感覚で1試合を戦い抜いた。

 フィンランド遠征では北京五輪銅メダリスト、そして3年前の世界選手権王者、ピトカマキに10メートル以上の大差をつけられたが、この日は60センチ差にとどめた。「ここは相性がいいし、フィンランドと比べてやりやすいから記録は当然」と額面通りには受け止めなかった。だが85メートル以上の自己記録を持つ他の2人の外国人選手には圧倒した。「これからも彼らのような一流選手に向かってやりたい」。今季最大目標のアジア大会前に、村上が価値ある一戦を消化した。【広重竜太郎】