<エジプト国際マラソン>◇18日◇エジプト・ルクソール

 名誉挽回で公務員ランナーが男を上げた!

 招待選手として出場した11年世界陸上代表の川内優輝(25=埼玉県庁)が、2時間12分24秒の大会新記録で優勝した。16日の日本出発時にパスポートを自宅に忘れ、航空券代約80万円の臨時出費を強いられた雑草男が、失地回復の快走を見せた。今日19日夕方に帰国。明日20日には埼玉県駅伝に出場し「弾丸ツアー」を完結させる。

 午前7時の号砲とともに、川内が歴史遺産の残る古代文明の街に、軽快に飛び出した。20度前後で推移する気温は決して好条件ではない。ただひたむきに、愚直に足を運ぶ。それがこの男の生きざま。独走態勢でゴールテープを切った。

 20回目の大会だが、くしくも自身のフルマラソンも節目の20回目。「第20回大会で僕も20回目のマラソン。運命的なものを感じる」と満足そうに語った。目標は「大会記録を更新すること」と話していたが、その記録(2時間22分32秒)を、何と10分以上も更新するおまけも付いた。

 この日の走り以上に猛ダッシュしたのが?

 出国時の成田空港だった。パスポートを埼玉県内の自宅に忘れ、母美加さんに持参してもらうドタバタぶり。母の空港到着の知らせを受け、ボルトばりの走りで受け取りに向かった。あの冷や汗に比べれば、エジプトで流した汗など心地よかった。

 その時を振り返り「自分のミスでパニックになり、反省している。何とか気持ちを切り替えようと思った」と、この日のパワーに変えた。いちずで憎めない男には、神様のご加護もあった。エジプト航空からカタール航空への搭乗便変更で往復約80万円の出費となったが、エジプト大使館の計らいで、カタール航空の復路分はキャンセル扱いとなり、自腹は往路分のみに。約25万円が戻ってくることになり“痛み”は月給約2カ月分に軽減された。

 当初予定では、17日にエジプトの首都カイロ到着後に「ピラミッドや神殿を回るのが楽しみ」と話し、文化交流、埼玉県特産の狭山茶のピーアール活動もこなす予定だった。それが経路変更で滞在できず「文化大使」としてはイエローカードもの。だが、競り合う相手もいない中で好タイムを出し、一流ランナーの面目は保った。

 せわしない行動を好む川内は、夕方に現地を飛び立ち帰路に就いた。今日夕方には帰国し、明日の埼玉県駅伝では最長の3区12キロを走るため、上尾の宿舎に入る。「マラソンの疲れが残っていても“川内やってるな”という姿勢を示せたらいい。挑戦する姿勢です。埼玉から日本陸上界を変えるつもりです」。片時も、この男から目が離せない。

 ◆川内優輝(かわうち・ゆうき)1987年(昭62)3月5日、東京都世田谷区生まれ。埼玉・鷲宮中-春日部東高-学習院大。大学時代は学連選抜で2度、箱根駅伝に出場。09年4月に埼玉県庁に入庁。11年2月の東京マラソンで2時間8分37秒(自己ベスト)の3位となり、世界選手権切符。11年9月の世界選手権18位で、日本の団体銀に貢献。175センチ、62キロ。家族は母、弟2人。

 ◆今後のマラソン

 川内は8月にモスクワで開催される世界選手権代表(5枠)を目指し、2月3日の別府大分、3月3日のびわ湖に出場予定。男子は福岡国際、東京、びわ湖が選考レースで、2時間7分59秒以内の日本人トップは自動内定。別府大分は“準レース”扱いだが、日本人トップで3位以内なら選考対象になる。川内は福岡国際で6位と敗れており、まずは別府大分でモスクワ切符に挑む。なお福岡の後は、12月16日の防府、1月13日の谷川真理ハーフマラソン(1時間5分31秒)、そしてエジプトとロードレース3戦全勝。完全に波に乗った。