五輪プレシーズンの16~17年、羽生結弦は満を持して、新たな武器「4回転ループ」を投入した。このジャンプはソチ五輪前後からずっと温めてきたもの。初戦のオータム・クラシックでいきなり跳び、世界初の成功者となった。

 16年4月に痛めた左足甲の治療のため、始動は例年より遅れ、本格的にジャンプが出来るようになったのは8月から。SP2本、フリー4本、計6本の4回転ジャンプに挑むとあっておのずと練習はジャンプに偏った。それがオーサー・コーチとの摩擦を生んだ。ジャンプミスを連発した2戦目のスケートカナダの後、2人は意見をぶつけ合った。

 演技の「トータルパッケージを大事にしなさい」というオーサー・コーチと「ジャンプが決まらないと、トータルにはならない」という羽生。師弟関係を組んで4年目。初めて腹を割って話してみると、目指すゴールは一緒だった。羽生は「今まで本音を言えずもやもやしていた。だいぶ垣根がなくなった」。コミュニケーションの深まりは、演技にも好影響を与えた。

 17年3月の世界選手権(ヘルシンキ)。SPで首位と10・66点差の5位と出遅れた羽生はフリーで大逆転。3季ぶりの王者に返り咲いた。それは羽生自身も「川の中にどぷんと入っているような感覚」と例える奇跡的な演技だった。4回転ジャンプ4本すべてで2点以上の加点をもらう完成度。「1本1本決めるごとに、徐々に自然の中に溶け込んでいく感じ」。前シーズンのGPファイナルで樹立したフリーの歴代最高点を自ら更新した。1カ月前の4大陸選手権で敗れたチェン、宇野らはより高難度のジャンプを跳ぶ。それでも、完璧に滑れば羽生が勝つと証明した。

 迎える五輪シーズン。羽生は練習後、オーサー・コーチに声をかけ、10分程度話し合うようになった。10年バンクーバー五輪の金妍児らをサポートした名将と緻密な準備を進める。拠点とするクリケットクラブのリンクの壁には、世界選手権、五輪の歴代王者の名が刻まれている。66年ぶりの五輪連覇へ。自分の名もそこに刻まれることを思い描いている。(敬称略)【高場泉穂】

(おわり)

◆2016年(平28)

 10月 シーズン初戦のオータム・クラシックで史上初の4回転ループに成功

 同11月 GPスケートカナダ2位

 同11月 GPNHK杯優勝

 同12月 GPファイナル4連覇

 同12月 インフルエンザ発症のため、全日本選手権欠場

◆2017年(平29)

 2月 4大陸選手権2位

 同3月 世界選手権優勝。フリーで世界最高点更新

 同4月 国別対抗戦(団体戦)優勝。フリーで後半4回転ジャンプ3本に史上初めて成功