総合格闘技大会の運営団体RIZINが、リオ五輪女子レスリング日本代表の吉田沙保里(33)に、新たな舞台を用意する。同団体の榊原信行実行委員長(52)が28日、吉田に12月31日のRIZIN大会(さいたまスーパーアリーナ)出場へ正式オファーを五輪後に出す考えを明かした。前人未到の五輪4連覇をひっさげ、吉田が総合格闘技に挑戦する可能性が出てきた。

 五輪金メダリストの国民的スターが、大みそかに新たな挑戦をする可能性が出てきた。榊原実行委員長は「吉田選手がアマレスを引退するとかではなく、彼女の勇気ある挑戦を日本だけでなく、世界に届けるメジャー感のある舞台は整っている。オファーは、五輪が終わったら伝えにいきますよ。ボクは、彼女がやってくれると信じている」と、熱っぽく語った。

 RIZINは、昨年10月に旧PRIDEをつくった榊原氏を中心に発足した。同年12月29、31日の旗揚げ戦は、元大関把瑠都(バルト)の総合格闘技転向や、ヒョードルの復活など話題を集めた。そして、勝負をかける2年目の目玉に、吉田に白羽の矢を立てた。

 発足時からRIZINは、日本レスリング協会と密接な関係を築いてきた。旗揚げ戦には、アマレスで20年東京五輪を目指す山本アーセンを修行の場として出場させた。吉田のライバルとして注目され、東京五輪も目指す村田夏南子は4月の名古屋大会でデビュー。吉田は応援に駆けつけた。今月2日に約1000人を招き「史上最大」と言われた個人壮行会も、裏方として榊原氏が尽力していた。

 「会うたびに誘っていますよ。彼女は『怖い怖い、顔を殴られるのは痛い』って言ってますが、4月に大会を見て、RIZINのことはしっかり理解してもらっていると思う」。RIZINは女子競技にも力を入れ、選手も発掘してきた。村田をはじめ、キック出身のRENA、ブラジル人で女子最強の異名を持つギャビ・ガルシアら人気選手も出てきた。「今や吉田はアマレスだけでなく、五輪代表の顔。総合格闘技に必要な勝ちを導き出せる知性もある。何より、プロとしての魅力にたけている。彼女が総合をやることによって、ほかの競技の五輪代表の人もやりたいと言ってくる」と榊原氏は言う。

 20年東京五輪への挑戦も口にする吉田だが、日本レスリング協会は17、18年の世界選手権には若手を起用する方針。昨年末に所属先のALSOKを退社した吉田は「新しいことにチャレンジしたい」とも話している。リオ五輪後、吉田がどんな結論を出すのか。大みそかの大会は、フジテレビによる中継も決まっている。「彼女が登場すれば、その瞬間は(視聴率で)紅白をひっくり返せるだけのインパクトがある」と榊原氏は期待した。

 ◆吉田沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重・津市生まれ。元レスリング選手の父栄勝さん(故人)の影響で3歳からレスリングを始め、02年世界選手権で初優勝。以来13大会連続で優勝している。五輪は初出場の04年アテネ大会で金メダルを獲得、選手団旗手として臨んだ12年ロンドン大会で3連覇。01年12月から個人戦203連勝中。三重・久居高-中京女大(現至学館大)からALSOKに進み、昨年12月に退社。家族は母と兄2人。157センチ。

 ◆RIZIN(ライジン) 15年10月に創設。正式名称は「RIZIN FIGHTING FEDERATION」で、総合格闘技イベントの開催団体。15年末にさいたまスーパーアリーナで旗揚げ戦を行った。実行委員長は旧PRIDEを創設した榊原氏。統括本部長は高田延彦氏が務める。今後は9月25日に、さいたまスーパーアリーナで14人が参加する無差別級トーナメント1回戦を開催。12月29日に、同所で準々決勝。同31日に準決勝、決勝を行う。トーナメント以外にも、試合が組まれている。

 ▼プロの参戦 同じ格闘技でも、ボクシング、柔道、相撲は、アマチュアの選手がプロの興行に出るには、アマを引退するなど厳しい規約がある。これに対し、アマチュアレスリングは、プロがアマの大会に出ることも、アマがプロの興行に出ることも許容されている。五輪でのプロ解禁は、柔道と同じ1992年のバルセロナ五輪から。最近では、全日本女子プロレスに参戦していた山本美憂が04年にアマレスのクイーンズカップに出場。07年にはHERO’sと契約していた山本“KID”徳郁が、北京五輪出場を目指し、全日本レスリング選手権に出場した例もある。