<フィギュアスケート:全日本選手権>◇最終日◇26日◇長野・ビッグハット

 苦しみ抜いて、乗り越えた。浅田真央(20=中京大)が逆転で世界選手権(来年3月、東京)の代表切符を手に入れた。SP1位で迎えたフリーは冒頭のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を回転不足と判定されたものの、大きなミスなく演じ、127・47点で合計193・69点をマーク。SP2位の安藤美姫(23)に逆転を許し、5連覇こそ逃したが、スランプからの脱出を印象づけた。試合後、安藤、3位村上佳菜子(16)とともに世界選手権代表に選出された。

 浅田が決めのポーズで天井を見上げ、柔らかく笑った。理想の演技ではない。だがフリー曲「愛の夢」の世界観を、今季初めて流れを失わずに表現できた。SP1位で迎えたフリーで127・47点の高得点をマーク。結果的に5連覇を逃し、優勝は安藤に譲ったが、復活の日が近いことを証明した。

 浅田

 今できることをSP、フリーともできた。1つ大きな山を乗り越えられた。また強くなった。

 五輪のような高難度プログラムではなく、確実に得点を重ねた。冒頭の3回転半は着氷したが、回転不足。予定していた2本目の3回転半は回避した。SP時は佐藤信夫コーチを押し切って果敢に3回転半を決めたが、この日は自重した。「信夫先生に『体力的にも1発の方がいい』と言われた。私もそう思った」。今の演技レベルを冷静に自己分析。大きなミスなく滑りきった。不振から脱出し、同コーチは「私も舌を巻きました。根性はただ者じゃない」と底力を感じた。

 華々しいスケート人生の中で、かつてない苦しみを味わった。「理想のジャンプは05年のGPシリーズのころ。今より高さがあった。それを思い出すためには半年、1年、2年ぐらいかけてやらないと」。多少の犠牲を払っても改造に臨む覚悟だったが、苦悩は深かった。GP2戦は8位、5位と惨敗。フランス杯では「自分の良い演技が、いつできるのかな」と不安も口にした。

 それでも前を向いて練習を続けた。1人で名古屋から新横浜に通い、復活への光明を探した。

 浅田

 (佐藤)信夫先生、久美子先生、アシスタントの小林先生に毎日しっかり見てもらえた。うまくいかなくても「自信を持って」と言ってくれた。小塚選手とも一緒に練習して、励まし合ってすごくいい練習ができていた。

 滑走直前には妹分の村上が滑っていた。幼少時代はともに山田満知子コーチに師事。今夏のアイスショーでは村上の髪をセットアップしてあげることもあった。NHK杯では浅田自身が過去ワーストの8位に沈んだにもかかわらず、村上の背中を優しく押した。大会で緊張に押しつぶされた“妹”に「次、カナちゃんが頑張ったら私も頑張るから」と声を掛けていた。世界女王の勇姿を示した。

 今大会も表彰台を逃せば、世界選手権は落選だったが、抜群の勝負強さで代表切符を勝ち取った。「ホッとしたけど気は抜かないで、世界選手権では全日本よりも、もっといい演技ができるようにしたい」。バンクーバー五輪銀メダル、世界選手権優勝、大スランプ…。まだ完全復活ではないが、激動の2010年の最後に、浅田が失いかけていた自信を取り戻した。【広重竜太郎】