<アマチュアボクシング:女子世界選手権>◇4日目◇14日◇中国・秦皇島◇ミドル級

 お笑いコンビ「南海キャンディーズ」のしずちゃんこと、ミドル級の山崎静代(33=よしもとクリエイティブ・エージェンシー)が、ダウンの応酬の打撃戦を制して、初戦を突破した。2回戦のシャフノザ・ニザモワ(ウズベキスタン)戦の初回にダウンを奪われたが、2回の猛攻で奪い返し、3回に2度のダウンを追加して、レフェリーが試合を止めるRSCで勝ち、ベスト16入りした。今日15日の3回戦で準々決勝進出をかけてドイツ人選手と対戦する。今大会はアジア最上位の選手に五輪出場権が与えられる。

 レフェリーの手が大きく振られた。終了のゴングが鳴る。中国の観客からも大きな声援が飛ぶ。肩で激しく息を切らしながらカウントを受ける相手を見つめていた山崎。その瞬間、ヘッドギアの奥の真っ赤に腫れた汗まみれの顔に、歓喜が広がった。

 山崎

 無我夢中で、絶対に負けられないと思った。無心でした。相手も疲れていて、盛り返そうとがむしゃらにやりました。

 3回、前進を止めなかった。体格で10センチ下回る相手を、全身にパワーをみなぎらせて追い回した。連打が、顔に、腹に決まる。39秒に右ストレートがさく裂した。ダウンを奪った。「しずちゃん、しずちゃん」の大合唱に背中を押され、仕留めにいく。残り6秒。「良いのが入った」。再び強烈な右ストレートを顔面にぶち込んで、国際試合初勝利をつかんだ。

 友人でロンドン五輪女子レスリング代表の浜口京子が作ってくれた「気合」と書かれた鉢巻きを巻いて入場した。初回開始のゴングとともに前に出たが、52秒にカウンターを食らい、ダウンを奪われた。それでも、心は折れない。顔面にパンチをもらいながら前に出続けた。キックボクシング歴12年の相手から2回50秒に最初のダウンを奪い、一気に押し切った。

 日本の女性では珍しい182センチの体格にずっと悩んできた。その「悩みの種」を「恵まれた体」と称賛してくれたのがボクシングだった。09年夏にロンドン五輪正式種目になると「運命だと思った」。迷わず芸人との二足のわらじを履いた。舞台の合間に1時間半の休憩があると、必ず30分は走りにいった。1日6時間の猛練習も積んできた。

 競技を始めてから度々、練習中に過呼吸に襲われた。関係者は「脳の報道などで、重圧が大きかったのか最近また増えた」と話す。4月に週刊誌に「10年春に頭部のMRI検査で脳に『影』が見つかった」と報じられた。結局診断では異常はなかったが、世界選手権を前に心的ストレスが増していた。中国入りしてからも、呼吸を乱す場面はあった。泣きじゃくる山崎に樋山監督が差し出したのはあめ。過呼吸対策を勉強して日本から持参していた。「周りの人のために」。だからこそ勝ちたかった。

 初戦を突破して16強入りした。今日15日にはドイツ人のシュトローマイヤーに挑む。苦手なサウスポーだが、「1戦1戦強くなっていきたい」。今大会でのアジアの出場枠は「1」と条件は過酷だが、続けてきた努力、周りへの感謝への気持ちを支えに拳を振るう。【阿部健吾】

 ◆ロンドン五輪出場の条件

 各階級(フライ、ライト、ミドル級)の五輪出場人数は各国1人の12人。今大会で決まる出場枠は「8」。大陸枠が設定されており、各大陸の最大枠数が決まっている。アジア枠はフライ、ライト級は「2」、ミドル級は「1」。アジア人最上位選手が複数いる場合(2人が準決勝敗退など)は、最後まで勝ち残った選手に負けた選手に優先権がある。残りの4枠に関しては各大陸の推薦枠を適用。大会後にAIBAによって協議され、各大陸ごとに出場選手を決める。アジアからは各階級とも1人が選ばれる。◆レフェリーストップコンテスト(RSC)

 アマチュアボクシングの試合でレフェリーの判断で試合を終わらせること。両者の実力差が大きい時や、一方の選手が負傷などで試合続行が不可能と判断された際に適用される。プロのTKOにあたる。