<大相撲名古屋場所>◇14日目◇24日◇愛知県体育館

 横綱白鵬(25=宮城野)がモヤモヤVを決めた。2敗で追っていた平幕豊真将(29)が徳瀬川(26)に敗れたため、取組前に3場所連続15度目の優勝が決定。結びではしっかりと大関日馬富士(26)をすくい投げで下し、初場所14日目からの連勝を「46」に伸ばした。賭博問題に揺れ、開催さえ危ぶまれた異例ずくめの場所でつかんだ「優勝旗」。大鵬の45連勝を抜く白星で輪島の14回を上回る優勝回数に到達したが、「賜杯」なき優勝に喜びではなく寂しさを爆発させた。

 髪を結い、立ち上がろうとした時だった。白鵬は動きを止め、再び腰をおろした。先場所に続く7度目の千秋楽前V。注目の連勝記録も伸ばしている。責任を果たしたからこそ、思いを吐き出した。「やることはやったという気持ち。でも、もらえるものをもらえないのは残念。どうにかなりませんか、賜杯。頼みますよ」。うっすらと光った両目を、タオルでぬぐった。

 2人の先輩横綱を超えた。豊真将が負けた瞬間は付け人に「どっちが勝った?」と聞いただけ。黙々としこを踏んだ。結びで負けたら意味がない。日馬富士には右四つ十分でも慎重に取った。低い体勢のままがっぷり組む。左上手が切れた時に右から豪快にすくった。軽量大関を土俵にたたきつけ、大鵬を抜く昭和以降単独3位の46連勝。15度目の優勝は輪島を抜き歴代6位となった。どちらが重い、の問いに「両方じゃないですか」と小さく笑った。

 場所前から賭博問題で揺れた。白鵬も仲間内での賭け花札で謝罪。協会は、優勝旗以外の表彰を辞退した。「賜杯」なき戦いに、初日3日前の8日には「国技をつぶす気か」と発言。周囲を包む過剰な自粛ムードにくぎを刺した。

 協会批判とも取られかねなかったが、反応は意外だった。「よく言ってくれた」の意見が相次ぎ、力士代表としての覚悟を決めた。「賜杯」だけじゃない。「日本人」「外国人」と分けることを嫌う。「ひとつの鍋で一緒に食事して努力している。国技を守ろうと、みんな一生懸命やっているんです」。生まれはモンゴルでも、力士のトップとして日本の「国技」を守り抜く責任感に包まれている。

 そんな無敵横綱は、文字通り歴史に名を刻もうとしている。歴代の横綱名を刻む「横綱力士碑」がある東京・富岡八幡宮には、「超五十連勝力士碑」がある。江戸時代に63連勝した2代目谷風、明治時代の初代梅ケ谷(58連勝)太刀山(56連勝)、そして昭和の双葉山(69連勝)と千代の富士(53連勝)-。史上6人目の誕生まで「マジック4」となり、同宮も「50連勝したら刻銘します。ぜひ到達してほしい」と期待する。

 賜杯はない。優勝恒例の「両手にタイ」もなかった。“謹慎場所”で白鵬は「一番うれしいのは、お客さんが応援してくれるから」と感謝する。史上初の3場所連続15戦全勝を狙う千秋楽。優勝力士インタビューではファンへ感謝の言葉を考えている。使命感と意地で戦う15日間。ファンに手を振る白鵬は「努力していれば報われる」と、ようやくうれしそうに笑った。【近間康隆】