<大相撲夏場所>◇13日目◇24日◇東京・両国国技館

 さぁ、全勝決戦だ!

 大関稀勢の里(26=鳴戸)が全勝を守った。大関鶴竜(27)を盤石の相撲で寄り切り。13連勝で、大関琴奨菊(29)を下手出し投げで転がした横綱白鵬(28=宮城野)との全勝対決に持ち込んだ。14日目での全勝対決は、78年名古屋場所の北の湖-輪島戦以来35年ぶり4度目。過去3度は勝った方が15戦全勝優勝を飾っている。果たして結果は…。

 目で追ったのは、自分の取組だけだった。それが決意の表れだった。東の支度部屋。稀勢の里は髪を結いながら、左上にあるテレビに目を向けた。リプレーで自身の一番が流れた。食い入るように見入った。次に白鵬の取組に変わった。その瞬間、目は真っすぐ前だけを見つめていた。大事なのは相手のことではない。「自分を信じてやるだけですから」。力みも緊張感も、その言葉でのみ込んだ。

 平日にもかかわらず満員御礼となった国技館。誰よりも多く受ける期待を、力に変えた。今場所、何度も見せた立ち合いの鋭さで鶴竜を圧倒。左四つから、最後は腰を落として寄り切った。「あそこまで行ったら必死」。先に勝って、白鵬の相撲を待った。そして決まった全勝対決。「思い切って相撲を取りたい。考えすぎず、一生懸命やるだけです」と力を込めた。

 立ち合いの仕切り、陸上トレ、出稽古…。場所前の“工夫”が話題に上る。だが「いろんなことが重なってる。場所前だけじゃないですから」と口にした。龍ケ崎・長山中学校を卒業する際、卒業文集の寄せ書きにこんな言葉を記した。「天才はうまれつきです。もうなれません。努力です。努力で天才に勝ちます」。

 角界に入ったとき、貴乃花、武蔵丸という横綱がいた。その後、朝青龍、白鵬という2人の横綱と相まみえた。その“天才”に勝つために、11年11月に死去した先代の鳴戸親方(元横綱隆の里)の下で厳しい稽古を積んだ。積み重ねた力を今、解き放つときが来た。

 節目の記録も今か今かと待ちかまえている。優勝制度が設定された1909年(明42)以降、これまで優勝を経験した力士は99人。次の全勝優勝も100度目となる。06年初場所の栃東以来、43場所ぶりの日本出身力士の優勝まで、あと少し。地元茨城・牛久市で稀勢の里が懇意にする中華料理「甲子亭」では、早くも「優勝メニュー」が完成した。大関の好物のピータン入り冷菜や、マーボー豆腐をちりばめた。さらに「紅白エビチリ」を、優勝決定の瞬間から閉店まで無料で振る舞う。地元民も、今か今かと待っている。

 横綱との並走。その感覚を「経験がないですから」と濁した。次の名古屋場所が初めての綱とりになるのは確実。これから幾度も積み重ねるであろう最初の体験は、どう出るか。26歳最後の場所で、決戦のときを迎える。【今村健人】