ペナントレースで独走優勝を決めた阪神にとって、このCSファイナルでの最大の敵は「実戦での勘」だった。絶対に負けられないという試合は、いつ以来になるのだろう。少なくとも1カ月以上はピリピリするような緊張感のある真剣勝負は遠ざかっている。一方のDeNAはCSファーストを理想的な2連勝で勝ち上がってきた。1勝のアドバンテージがあるとはいえ、阪神にとって苦しい初戦になると思っていた。

阪神を救ったのは、隙のない緻密な走塁だった。0-0で迎えた6回裏、先頭打者の近本がショートへの内野安打で出塁し、2番の中野が初球に送りバントを決めた。ここまでは阪神の定石通りの野球で、後はクリーンアップがDeNAの東を打てるかどうか。ここまで劣勢な試合展開だっただけに、やっと訪れたチャンス。投打の勝負に集中しているときだった。

3番の森下に対しての初球、二塁走者の近本が三塁へスチール。投手が動き出す前からスタートを切る完璧なスタートだった。捕手の山本はボールを握り損ねて送球しなかったが、これは投げても間に合わないために諦めたのだろう。

この場面でこれだけ完璧なスタートを切れるのは、二塁走者がいるときの東の癖が分かっていたからだと思う。この時、東はセットに入ってから2度、首を動かして走者を確認している。おそらく2度以上、首を動かした後はホームに投球するという癖があったのだろう。はっきりしたデータがなければ、1、2球はデータ通りなのかを確認したくなり、初球から走りにくい。しかし近本は早すぎるとも思えるほどのスタートで三盗を決めた。

森下はタイムリーで先制した後の走塁も見逃せなかった。1死一塁、佐藤輝の打球はセンターへのフライだが、捕れるか捕れないかの微妙な飛球だった。二塁ベース手前で打球判断しようとしていた森下だが、キャッチされたら一塁に戻ってもアウトになるというギリギリのタイミングで三塁を狙った。好走塁で一、三塁というチャンスを作った。

ここから大山の三ゴロでも三本間に挟まれた森下は粘った。一塁走者だった佐藤輝も、サードの筒香が森下を本塁に向かって追うタイミングで三塁に走ってセーフ。このプレーがなければ、2点目の得点に結び付かなかっただろう。

ペナントでは強力な投手陣に加え、1番から5番まで固定して起用できたオーダーで勝ち星を積み上げてきた。しかし、阪神の強さはそれだけでなく、こうした隙のない走塁もある。劣勢な試合を機動力でひっくり返した。阪神の強さを、改めて感じさせる試合だった。(日刊スポーツ評論家)

阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、三盗を決める近本(撮影・たえ見朱実)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、三盗を決める近本(撮影・たえ見朱実)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、打者森下翔太の時、二走近本(右)は三盗を決める。三塁手筒香(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、打者森下翔太の時、二走近本(右)は三盗を決める。三塁手筒香(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、打者森下のとき近本が三盗を決める(撮影・藤尾明華)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死二塁、打者森下のとき近本が三盗を決める(撮影・藤尾明華)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死一、三塁、大山の三ゴロで三走森下が三本間に挟まれる間に三塁へ進んだ一走佐藤輝(右)(撮影・藤尾明華)
阪神対DeNA 6回裏阪神1死一、三塁、大山の三ゴロで三走森下が三本間に挟まれる間に三塁へ進んだ一走佐藤輝(右)(撮影・藤尾明華)