「夏の風物詩」をボーッとテレビ観戦していた時、阪神上本の心配顔をふと思い出した。あれは今季開幕前だっただろうか。甲子園クラブハウスへ続く薄暗い通路で、なんとなく高校野球の話題で盛り上がっていた時のこと。「でも、甲子園に出て苦しむ選手もいますから、そこは心配ですよね。子供の人生を甲子園で決めさせてしまうのは酷ですからね」と突然、マジメな顔つきになったのだ。

 もちろんご存じの方も多いだろうが、上本自身は「甲子園の申し子」的な存在だった。広島の名門、広陵時代は4季連続で甲子園に出場。2年春のセンバツ大会では全国制覇に導き、甲子園通算成績は打率5割の7打点、1本塁打と飛び抜けている。そんな男なのに、毎年甲子園を見る度に、傷ついた選手たちの心が気になってしまうという。

 「ものすごく注目度が高い大会だから、たとえばサヨナラエラーをしてしまった選手なんかは、大人になってもずっと言われ続けたりするじゃないですか。つらいだろうなって思います。高校生にはまだまだ先の人生がある。甲子園だけが人生のすべてではない。なんとか乗り越えて、次のステージで活躍してほしいですよね」

 今夏の甲子園では今のところ、いち選手のミスが際立って目立ったシーンはないように感じる。とはいえ、夢の大舞台で後悔だけが残った選手も決して少なくはないだろう。どうか、甲子園での悔しさを長い人生の糧にしてほしい-。心優しき上本、そして多くの野球ファンが感じているそんな思いが、涙に暮れた球児達たちに届くことを切に願う。【阪神担当 佐井陽介】

東海大甲府戦で先頭打者本塁打を放つ広陵・上本博紀(2003年8月9日撮影)
東海大甲府戦で先頭打者本塁打を放つ広陵・上本博紀(2003年8月9日撮影)