巨人岩隈久志投手(39)が今季限りで現役を引退すると19日、発表された。99年ドラフト5位で近鉄に入団。05年からは楽天に移籍し、12年からは大リーグのマリナーズで通算63勝を挙げた。19年から巨人に入団し、8年ぶりに日本球界に復帰したが、右肩痛の影響で2年間1軍登板はなかった。09年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では世界一に貢献するなど、日米通算170勝をマーク。平成を代表する右腕が、21年間の現役生活に別れを告げる。

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野球記者となり14年がたつが、あんな電話は後にも先にも1回切りだ。12年1月5日の午後と記憶する。「マリナーズに決めました」。岩隈からだった。新聞に出るのを承知で、かけてきてくれた。翌日の日刊スポーツ1面には「決定マリナーズ岩隈 わずか1億1250万円」の見出し。単独スクープだった。契約の詳細。背番号18となったこと。何より岩隈本人のコメントが入るのは、この手のニュースとしては極めて異例。発表前に本人が明かしたと分かってしまうが「構いません」と言われた。

関係の深い記者とならあり得るかも知れないが、特に仲が良かったとは思わない。質問には短く一言、二言で、記者泣かせと感じていた。食事を同席したことはなく、携帯番号も10日ほど前に聞いたばかり。聞きそびれたままオフを迎え、移籍取材に必要と焦ったぐらいだ。初めてもらった電話が、とんでもない内容だった。

なぜ大事な情報を教えてくれたのか。唯一の心当たりは、前年に岩隈家を取材したこと。仙台で被災した、まどか夫人に震災後の家族のストーリー、被災地への思いなどを聞き「家族の力」と題し紹介した。岩隈本人に確認したわけではない。ただ、彼なりに記事への恩を感じてくれていた、としか考えられない。クールな印象を持たれがちだが、とても義理堅い。【11~14年楽天担当 古川真弥】

2012年1月6日付の日刊スポーツ
2012年1月6日付の日刊スポーツ