カメラのシャッター音、乾いた捕球音、そして男たちの雄たけび。1球1球、1秒たりとも気が抜けない空間が、そこにはあった。

3年ぶりに開催された阪神の秋季キャンプが、21日に終了。高知・安芸市営球場のサブグラウンドに隣接するブルペンは、戦場という表現がふさわしかった。記者が半袖シャツを持参しなかったことを、激しく後悔するほど温暖な気候。腕を振るにはこれ以上ない環境だった。

主に野手が練習を行うメイングラウンドは、観客がいた。ただ、ブルペンは進入禁止。投げ込みを行う投手陣の一挙手一投足から発せられる気迫や、数メートル先を通過する白球の迫力を感じられたのは、球団関係者以外では記者陣のみだった。

キャンプに参加した投手は13人。岡田彰布監督(64)の方針で、一部投手を除き毎日ブルペン入りした。取材班の調べでは、彼らが投じた球数は合計1万2616球。全体練習後の個別練習を含めると、もっといく。

その場にいたからこそ分かる13投手分の「観察日記」を、キャンプ期間中に投じた球数が多い順に、ここに記しておく。【阪神担当 中野椋】

▼馬場皐輔投手(27)=1244球 10月のフェニックスリーグでは先発テストも経た右腕は、セットポジションから投球。ブルペンでは納得の表情の方が少なかったように映った。自身に求めるレベルは高い。復活への覚悟が、参加投手の中で最多の球数に表れた。

▼石井大智投手(25)=1226球 捕手を立たせた状態で全ての変化球を投じてから、ピッチングに入る。準備、こだわりを貫き、全体で2番目に多い球数。直球のノビは岡田監督も高評価。「使い勝手よさそうやんか」と起用ビジョンまでちらつかせるほどだった。

▼岡留英貴投手(23)=1209球 サイドハンドから力強い直球を投げ込んだ。チェンジアップを重点的に練習するも、ブルペン捕手からは「ツーシームと変わらない」と度々指摘される。裏を返せば、まだまだ伸びしろがある証拠。貴重な変則右腕として1軍ブレークの土台を作った。

▼川原陸投手(21)=1167球 育成では唯一のキャンプ参加。故障に泣かされてきた男が、存分に練習を積んだ。全体でも4番目に多い球数。直球に力強さが戻りつつあり、来季支配下復帰への下地を作った。

▼岩田将貴投手(24)=1153球 久保田投手コーチを左打席に立たせて投球するなど、実戦も意識。直球のスピン量増をテーマに掲げる一方、武器のスライダーにも磨きをかけた。

▼村上頌樹投手(24)=1148球 他の投手と並んで投げていても、1人投球テンポが速い。直球のキレが良く、目の前を通る直球はシューっとうなる。2軍では安定した投球を続ける右腕は、もう1段階上のレベルの直球を追い求め、ボールを受けた梅野からは「球来てたよ」と高評価を受ける場面も。

▼鈴木勇斗投手(22)=1089球 コントロールが課題の左腕は、ボールを強くたたくことを意識。受けた坂本捕手からは「大丈夫だからもっとこい!」とゲキを飛ばされ、修正した直後は威力ある直球がミット音を鳴らす場面も。最速152キロを誇る男が、本来の球威を取り戻すための感覚をつかんだか。

▼桐敷拓馬投手(23)=1063球 ブルペンではたびたび安藤投手コーチと話し込む場面が目立った。納得のいかない表情が多かった印象。日を追うごとに疲労がたまり、体が開き気味になる悪癖と向き合った。先発左腕不足のチームだ。チャンスをつかむための基礎を作った。

▼西純矢投手(21)=1029球 来季規定投球回&2ケタ勝利を目指す右腕は、角度のある直球をどんどん投げ込んだ。ブルペン捕手からも「ナイスボール!」連発。左足の使い方に修正を加え、武器の直球にはさらに手応えを深めた。

▼及川雅貴投手(21)=995球 フォームにばらつきがあり、悩み続けた。「毎日が試行錯誤」と語り、「くそー!」とブルペンではもがく場面も。フォークを試投するなどチャレンジは欠かさなかった。

▼才木浩人投手(24)=859球 フォームに修正を加え、直球、カーブ、フォークの3つの軸を磨き抜いた。フォークについては「カーブを投げる感覚で投げるといい感じだった」と感覚をつかんだ様子。ブルペン捕手からは「今年イチじゃないか?」と声が飛ぶほど、充実の日々を送った。

▼伊藤将司投手(26)=217球 シーズンでの疲労を考慮し、浜地とともに「毎日ブルペン」を免除された。それでも、ブルペンに入った際はキレ味鋭い直球を投げ込み貫禄をしめした。ブルペン捕手から「開幕(投手)いけるんちゃうか?」と絶賛されるほど。新球シュートも試すなど、遊び心も交え充実した。

▼浜地真澄投手(24)=217球 シーズンでの疲労を考慮し、伊藤将とともに「毎日ブルペン」を免除された。フォーク習得に本格着手。「11月の段階ではいい」と手応えを明かした。

ブルペンで投げ込む西純矢(左)を見つめる岡田監督(2022年11月7日撮影)
ブルペンで投げ込む西純矢(左)を見つめる岡田監督(2022年11月7日撮影)