パドレス傘下2Aアマリロの本拠地に到着すると、苦笑いの牧田和久投手(34)が「手が痛い…」とグラブを振っていた。若手投手とのキャッチボール直後。「ボールの強さが違う」と若干本気で困っていた。

かつての侍ジャパン守護神は今、メジャー30球団でもトップクラスに若手有望株がひしめくチーム事情もあり、マイナー契約で戦っている。「米国は若手のプロスペクトがものすごく多い。100マイル(約160・9キロ)投げる投手なんてバンバンいますよ」。この言葉にウソ偽りがないことは、たった5試合のマイナーリーグ巡りでも嫌というほど痛感させられた。

アマリロのリリーバーだったメキシコ出身の20歳右腕ヌニョスは最速103マイル(約165・8キロ)。5月上旬の試合では163キロを連発し、直後に昇格した3Aエルパソでも好投を続けている。一方、23歳の右腕バルデスは160キロを出しても痛打され続け、防御率10点台だった。

休日に観戦したカージナルス傘下1Aピオリアの試合でも、敗戦処理で登場した中継ぎ投手が簡単に155キロを計測。それを名もなき8番打者があっさり打ち砕いたから面食らった。160キロが甘く入れば普通に打ち返される世界。マイナーリーグのレベルの高さは正直、想像を超えていた。

大リーグの球団は、3A以下の全カテゴリーも合わせると常時300人前後の選手を抱える。毎年30球団で年間約1200人がドラフト指名され、ほぼ同じ数の選手が淘汰(とうた)されていく。極めてシビアな現実を踏まえれば、3A、2Aにもえりすぐりの原石がゴロゴロ転がっているのは当然なのかもしれない。

そんな現状があっても、育成を重視する球団側はあぐらをかいていないから恐ろしい。13年ドラフト2巡目(全体66位)でヤンキースに入団した同傘下3Aスクラントンの加藤が、近年の変化を教えてくれた。

「この6年間で食事面はすごく変わりました。最初は自分でハンバーガーを食べに行ったりもしましたけど、今はどのカテゴリーでも(球団から)食事を出してもらえます。マイナーの低いカテゴリーでも食事が出るようになりました」

そういえば、アマリロ牧田もナイター後に球団が出す食事でタンパク質を取っていると言っていた。ハンバーガー1個で飢えをしのぐ、というイメージはもう古いのか。食事面のサポートはマイナー組織で以前より強まっているようだ。

能力のデータ分析が進み、栄養管理も格段に丁寧になり、昨今の「ベースボール」は今まで以上に才能が埋もれにくくなった。では、想像を絶する倍率を勝ち抜いたプロスペクトが次々と現れる中、日本人選手たちは猛者たちとどう張り合えばいいのだろうか。(つづく)【佐井陽介】

◆佐井陽介(さい・ようすけ)兵庫県生まれ。06年入社。07年から計11年間阪神担当。13年3月はWBC担当、14年は広島担当。メジャー取材は08年春のドジャース黒田以来11年ぶり

ヤンキース傘下の3Aスクラントンに所属する加藤はメジャー初昇格を目指し、ユーティリティープレーヤーとして奮闘している(撮影・佐井陽介)
ヤンキース傘下の3Aスクラントンに所属する加藤はメジャー初昇格を目指し、ユーティリティープレーヤーとして奮闘している(撮影・佐井陽介)