今年も多くの選手たちがプロの世界を去った。第2の人生へ踏み出す彼らを特集する「さよならプロ野球」を、全12回でお届けする。
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巨人テイラー・ヤングマン投手(30)が珍しく悔しがった。8月22日、敵地名古屋でのナイター中日戦。約1カ月ぶりの1軍マウンドで4回途中9安打7失点。「申し訳ないの言葉しか出てこない」と残し、人目を避けるように一足先に帰京した。ウエストボールがすっぽ抜け、一塁側ベンチ前を転々。ストライクゾーンに投げれば、ことごとくはじかれた。今季最後の1軍マウンドとなった。
来日2年間、マウンド上では抑えた時も打たれた時も表情を変えなかった。ポリシーの裏にはテキサス大オースティン校時代の監督からの教えがある。「コントロールできることに集中しなさい」。結果は左右できないが、自らの心を律することができる。感嘆の声が上がっても、冷静にハートだけは熱くあった。
「ナイスガイ」という言葉がぴったりだ。都内の自宅からジャイアンツ球場までは電車通勤。京王よみうりランド駅から球場までの急坂はタクシーを使った。今年の夏ごろ。同エリア担当の運転手の別エリアへの異動を知り「ちょっと待ってて!」と球場正面で車を止めた。数分後。昨季までの背番号39が入ったウエアにサインを書いて渡した。「ありがとうございました」。運転手は涙したという。
休日には大阪、奈良、広島・宮島、長野・渋温泉などの名所をブリタニー夫人と回った。「日本人はとてもまじめで礼儀正しい。日本が大好きだよ」と日本語の勉強にも取り組んだ。
ただ外国人選手はシビアに結果を求められる。2年間で14試合に登板し6勝5敗、防御率4・86。198センチの長身を生かし切ることができなかった。来季も現役続行を希望。「日本での経験は必ずいつか生きてくると思う」と学んだ“和”の心を次のステージへの糧とする。【桑原幹久】