退団を発表した当日の試合で、出場せず終了を迎えた西岡剛(2018年10月2日撮影)
退団を発表した当日の試合で、出場せず終了を迎えた西岡剛(2018年10月2日撮影)

今と昔。時代は流れている。世の中が移り変われば生活に変化があって当然。今と昔を語るなら、古くからの伝統を引き継いでいるものがあれば、事が進化して新たにスタートするものとがある。プロ野球界もしかり。我々の現役時代と現代とを比較する。各システムに違いがあって当たり前。昨年のオフシーズンには水分補給、自主トレ、キャンプ等々の“今昔物語”を執筆してきたが、今年のファームは阪神がイースタン覇者巨人を下して日本一に輝いて公式戦が終了した切りのいいところで、今年も球界の今と昔を語ることにした。早速、新たな話題が出てきてくれた。

先日、驚きのフライング発信が世間を騒がせた。阪神西岡剛である。自身のインスタグラムで球団から戦力外通告を受けた旨を公表したことだ。異例の出来事である。私、現役選手10年、新聞記者14年、球団職員21年、計45年間プロ野球界に携わってきたが、初めて目にした出来事で時代の流れを痛感した。本来なら所属する組織(球団)から発表してしかるべきもの。ましてや、その時点では1軍のベンチ入りをしている。阪神に籍がある身分でありながら球団には事後報告でスマホからインターネットを通じて不特定多数の人に自らの退団を表明している。気になることが脳裏をかすめた。

世の中、何かにつけて便利になった。戦前生まれ(昭和14年)の私には、LINEだの、ツイッターだの、インスタグラムだの、SNSだの全くの音痴。世間から置いてけぼりをくって、便利なものを使いこなせないジレンマはあるが、何事にも便利になればなるほど簡単に己を表現できるし、不特定多数の人に近況を発信しようと思えば、よりたやすくなっている。ここに問題ありだ……。

現況を見渡してみる。自然の猛威は尋常ではない。人間社会で起こる事件も残酷だ。予期せぬ出来事が急に飛び出してくる時代。今回の件にしても球団側は全くの想定外。関係者は困惑していたし、プロ野球界としては選手との契約条項を一度考え直す時期が来ているような気がする。たまたまこの件は他人に迷惑を掛けることなく、尾を引くこともなかったが、選手は組織の一員とはいえ、チームを運営する会社の社員にあらず。本来は“一事業主”なのである。ある意味自由な面はあり、どこのチームにも不満分子は必ずいるから厄介。グラウンド内外でチームへの不満、個人批判が一人歩きしだしたら大変。チームは野球どころではなくなる。

昔はパソコンとか、スマホなどという便利なものはない。仮に個人的に不満があって何か訴えたいことがあったとして、信頼のおける人に胸の内を打ち明けることはできても、不特定多数の人に個人で話題を提供する手だてはなかったし、表面に出す気もなかった。もし、マスコミの人がニュースをつかんで取材に来たとしても、自分の意思だけで表面化させることはなかった。そして、直接取材に来た場合まずは警戒するし、周りへの迷惑が頭に浮かぶ。それに、我々の現役時代には、まだまだ縦社会の名残があった。個人で勝手な行動を取ろうものなら鉄拳制裁どころか相手にしてもらえなくなる時代。問題を解消しようとするなら、当事者と直接話し合って解決するか、見過ごす以外になかった。

常識に任せておいていいのだろうか。本来はそうあってほしいが、この世界、一筋縄ではいかない人が多々いる。一度熟慮する必要があると見たが……。さて、と--。今季もシーズン中は阪神を中心に鳴尾浜通信で話題を紹介してきたが、現在は宮崎で12球団の若手らが戦うフェニックスリーグの真っただ中。各選手が個人技のレベルアップを目指しての実戦訓練は佳境に入っている。もう宮崎では来シーズンが始まっている。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)