<イースタンリーグ:ヤクルト5-1西武>◇29日◇戸田
2軍戦の中から個性的な選手をリポートする田村藤夫氏(62)は、ヤクルトの育成1位・岩田幸宏外野手(24=東洋大姫路-ミキハウス-BCL信濃)の速さに可能性を見いだした。単なるスピードだけではなく、1軍でも存在感を示せるであろう、武器になる足について解説する。
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今季これまでのスコアブックを見返して、岩田のプレーを見るのはこの日で3度目だったと気がついた。過去2回は、足は速いな、というくらいの感想しかなかった。それが、この日のプレーからは、1軍でも十分にアピールできるだけの可能性を感じた。
4打数3安打、2盗塁。センター前、ショート内野安打、そして右越え二塁打と3安打。私が注目したのは、2度の内野ゴロだった。第2打席のショートへの当たりは三遊間寄りのゴロ。普通の打者の足なら、遊ゴロだろう。それが、楽勝で内野安打になった。私のイメージでは、1軍でもあのコースへのゴロなら、岩田なら内野安打になるのではと感じた。
それ以上に驚いたのは第3打席の一ゴロだった。一塁正面の平凡なゴロ。しかし、岩田のスピードは抜きんでている。当然、アウトにはなったが、私には「アウトではあるんだけど、この速さと一塁に猛然と走り込む迫力は尋常ではないな」との思いが浮かんできた。
一塁ゴロでそんな感覚を抱かせる走者はそうはいない。それは、単に足が速いだけではなく、ちょっとしたミスが出れば絶対にセーフにしてみせる、という岩田の執念のようなものが伝わってくるからだろう。
例えば、この一ゴロを見た後に、内野ゴロが飛んだなら、セカンドだろうが、サード、ショートだろうが、最大限の神経を使って処理せざるを得なくなる。裏を返せば、わずかなタイムロスも許されない。もちろん、握り直しもだめだろう。プレッシャーがかかる。岩田の足は、内野陣に無言の圧力をかける。それはひとつの魅力だ。
そして、3回と5回に先頭打者として出塁すると、いずれも初球でスタートを切り盗塁に成功。相手投手が外国人選手だったため、クイックがそれほど速くないこと、自分の足に絶対の自信があるからこその2盗塁だったと言える。ただし、捕手の立場から言わせてもらうと、いかに走れる条件がそろっていても、スタートを切ることはまた別の問題だ。
スタートを切るには、ある種の勇気に近い決断がなければならない。いくら絶対値での足の速さを持っていても、けん制が来るかもしれない不安定な状況下では、思い切れない選手も多い。それこそ、クイックが苦手と言われる外国人投手なら、走って当然と思われる。その中でスパッと、いずれも初球でスタートしたところに、盗塁ができる走者としての強みを見た。
今年は西武の滝沢、ソフトバンクの渡辺、ロッテ小沼、巨人増田陸ら、育成から支配下選手に昇格して、1軍で活躍している選手がいる。何か光るものがあれば、育成選手にもチャンスは与えられる。ただひとつの武器であっても、厳しい1軍の生存競争に割って入る資格はつかめる。
育成1年目の岩田は24歳。若くない。すぐにでもチャンスをつかみ、7月末までに支配下選手登録を勝ち取り、1軍昇格への足場を固めたいだろう。そして、その可能性はこの日の動きを見て、あながち低くはないと感じる。
速さがある選手は、守備固めとして守りから入るケースと、得点に絡む代走として攻撃から入るケースがある。今のヤクルトには塩見、山田という俊足打者はいるが、岩田のように思い切りよくスタートを切れる走者は、監督からすれば使ってみたくなるのではないか。
2軍戦でも、試合終盤のもつれた試合展開の中での盗塁、しつこくけん制された中でのスタートなど、岩田がくぐりぬけねばならないハードルはいくつもある。もちろん、バッティングもさらに力強さを加えなければならない。
試練はいくつも訪れるだろうが、岩田には自信をもってトライしてほしい。あの一塁ゴロで見せた迫力ある走りは、そうそう誰もまねできない。一歩目からベースを踏むまで、1ミリも力を抜かない走塁は、ぜひファームを訪れるファンの皆さんにも見ていただきたい。(日刊スポーツ評論家)





