明豊対横浜 応援団へのあいさつを終え引き揚げる横浜・平田監督(左)、エース及川(右)(2019年3月24日撮影)
明豊対横浜 応援団へのあいさつを終え引き揚げる横浜・平田監督(左)、エース及川(右)(2019年3月24日撮影)

ドキッとした。24日のセンバツ甲子園初戦で明豊(大分)に敗れた横浜(神奈川)平田徹監督(35)の試合後のコメントだ。

「潜在能力が高い投手というのは進歩が遅いのもある。在学中に勝てる投手になるかといえば、なかなか難しいかもしれない」

この言葉だけを切り取ると、なかなかドキッとさせられる。先発しながら突如制球が乱れ、3回途中で降板したドラフト候補左腕・及川雅貴投手(3年)について言及したものだった。

平田監督の取材の輪に加わった先輩記者によると「なぜ突然、あんなふうになってしまうのですか?」「どうやったら直せるのですか?」など、10回近く同様の質問が繰り返された。平田監督は1つ1つに言葉を選びながら答え、最後に冒頭のコメントがあったという。

前後には「彼にはその後も野球人生が続くから、誰かが育てないといけない」「あまり我々が焦らせるのではなく、こつこつやらないといけないところもある」といった文脈もあったそう。高校球界屈指とされる逸材を育成する思い、悩みを誠実に口にした…というのが真実のようだ。

日刊スポーツも含め、25日の各紙記事には「制球難」の文字が並んだ。及川本人も指導陣も十分自覚し、シーズンオフには多様なアプローチでフォーム固めに全力で取り組んだ。リリース時にボールを引っかきやすいのも、課題の1つ。「大胆に引っかけることは減りました。でもそれでむしろ球が甘くなったかもしれません」と及川。ゲームのように、ボタンを押すだけで課題は消えない。1つずつ丹念に解決するしかない。

「自分、やるべきことは全力でやらないとダメな人なんです」と及川は言う。甲子園が近づいても、ケース打撃の二塁走者につけば、投球モーションを盗んで三盗を試みる。けがのリスクを過度には考えないのが及川だ。昨年12月にアマチュア野球担当となり、24日のセンバツ初戦まで、数えると約50時間を横浜野球部の取材活動に費やした。野球のあらゆる側面に全力でぶつかる姿が、最速153キロの速球以上にいつも印象に残る。

そして、思いや悩みを誠実に吐露した平田監督と同じように、及川は誠実だ。朗らかで人懐こい。今回の敗戦後も背筋を伸ばし、目を伏せず、報道陣の時に厳しい質問にも逃げずに答え続けた。将来、プロ野球選手になったら多くのファンがつくだろう。及川に限らず、横浜には一社会人としての成功する姿が想像しやすい生徒が多い。

今回は、センバツ選考委員会での同校選考理由の1つに「及川君」と個人名が出た。負ければ批判の声が出かねない状況で、投球にも采配にも重圧がかかる。残念ながら良い結果は出なかったが、課題克服に逃げずに取り組んだ選手や、成長への手助けに尽力した指導陣の姿勢は、少なくとも尊重されるべきと感じる。

プロ野球各球団の「希少な大型左腕の逸材」として高評価に変化はないようだが、投球内容では星稜(石川)奥川恭伸投手(3年)と明暗が分かれた。「全てにおいてレベルアップしないと。1からやり直しです」。そう言って取材時間が終わると、及川はいつものように手を前にそろえ、報道陣と目を合わせ「ありがとうございました」と頭を下げた。こういった姿勢が、野球でも必ずや壁を乗り越えるだろうと期待させてくれる。高校最後の夏まで、まだ100日以上ある。【金子真仁】

横浜対明豊 3回途中で5安打5失点で右翼の守備に就く及川(2019年3月24日撮影)
横浜対明豊 3回途中で5安打5失点で右翼の守備に就く及川(2019年3月24日撮影)