高校野球は特別なのか? 夏の甲子園が開催されるか取材する日々で考えてきた。特に、4月26日に全国高校総合体育大会(インターハイ)が中止となって以降、甲子園も中止すべきという文脈で「野球だけ特別扱いするな」との声が非常に大きくなった。

昨年の夏の甲子園開会式(2019年8月6日撮影)
昨年の夏の甲子園開会式(2019年8月6日撮影)

高野連と高体連は別組織だとか、規模も歴史も違うだとか、語り尽くされている。特別かはともかく、取材を重ねて気がついたのは、高校野球の当事者からは「野球は特別だ」という声は聞かなかったということだ。心の中までは分からないが、少なくとも、私が接した指導者や選手で口にする人は皆無だった。

全日本野球協会(BFJ)の山中正竹会長(73)は「『野球は特別だ』と野球人が言っちゃいけない」と力説する。過去には、特別扱いで当然と振る舞う野球人もいたという。だが、コロナ禍の中、山中会長の耳にも、そういう人は聞こえてこなかった。「野球人口の減少が問題になっているけど、質も問われないといけない。指導者が分かってきたのでは」。プロ野球の開幕延期に、相次ぐアマチュア大会中止。無念極まりない事態において、心励まされる気付きだった。

山中正竹氏(20年1月14日撮影)
山中正竹氏(20年1月14日撮影)

高校野球が特別かどうかは、やる人よりも、むしろ見る人の問題のように思う。甲子園中止で真っ先に思い出したのは、28年前のこと。郷里・福岡の西日本短大付が初優勝した。野球少年ではなかったが、夏休み明けの2学期、放課後に、みんなで「森尾!」とエースの名を叫び、草野球で盛り上がった。

盛夏の2週間は、上京した人間には故郷を思い出す時間でもある。その喪失感がある。だから、私にとって高校野球は特別だといえる。当事者、特に3年生の無念は、どれほどか。せめて、寄り添う記事を。【東京アマチュア野球担当=古川真弥】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)