「優勝するチームは80勝すると思います。逆にいうと60敗できるわけです」。これは指揮官・矢野燿大が1軍監督として戦う前の19年3月、「阪神タイガース激励会」で語った言葉だ。

長いシーズンを戦うプロ野球の本質を具体的に示しているようでずっと頭に残っている。好調な阪神だが、もちろん負ける試合はある。この日はヤクルトに今季初の敗戦。今季ワーストの14失点というおまけもついて今季12敗目を喫した。

負けるときはこんなものということか。惜敗よりも完敗の方がダメージが残らないという考えもある。5月に入り、いまひとつ元気のない西勇輝が責任投球回数こそ投げたものの押し出し四球もあっての5失点。さらに2番手以降の投手も全員が失点した。

普段なら試合途中から反撃を仕掛ける阪神打線も、さすがにこれでは厳しい。虎党は不振にあえいでいたロハスに待望の1発が出たことで納得するしかない内容だったかもしれない。

だから後を引くことのない敗戦…と言いたいところだけど気がかりなことはある。足に張りがあるという糸原健斗の状態だ。この日は積極的休養を取らせたということで代わりに小幡竜平を遊撃で起用。すっかり遊撃に定着していた中野拓夢は二塁に回った。

小幡は将来的に大型遊撃手に育てようとしているはずなので、これは何もおかしくない。いい今季初安打を三塁打で飾ったのもよかった。だけど、これで開幕から安定していた「梅野隆太郎=糸原健斗=近本光司」のセンターラインの一角が崩れる形になった。

その3人は打撃面でも微妙に連動している。この日はつながらなかった打線。糸原不在が影響していたと思えば、やはりその状態が気になってしまう。

19日には西純矢がプロ初先発する。スカッと勝ってほしいけれど強力ヤクルト打線を抑えるのはそう簡単ではないだろう。打線がどこまで援護できるかが大事だけど、そう考えると、この日は勝っておきたかったかもしれない。

糸原の欠場が積極的なものだったとして、この試合で休ませたのも、ここで西純を起用するのも、すべて矢野の決断だ。ロハスが打ったことで外国人起用の課題も増えたはず。好調なチーム状態だが状況は日々、刻々と変化していく。「60敗はできる」。敗戦のつくり方も含め、その采配がこれまで以上に注目される。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)