負けて気分のいいはずがないが悔しいというよりなんだかモヤモヤしている虎党も多いのではないか。独断と偏見で書けば、そこにはファンと指揮官・矢野燿大の思考の間に“乖離(かいり)”があるからではないかと思う。

ファンも我々メディアもこのヤクルト3連戦を今季の正念場ととらえていた。ここで勝たねば今季は終わり、という感覚だ。しかし実際に戦っている矢野はもう少し冷静だろう。

この3連戦、この試合が重要なのは分かっていても「もういってまえ!」というわけにはいかない。ここまでの流れ、選手の状態、そして現状を分析して試合に臨んでいるのは当然のことだ。

回りくどい言い方だがズバリ言えば、こうだ。「ここまで来たらテルをスタメンで使ってくれ」。ジェットコースターのごとく好調から不振に陥ったルーキー佐藤輝明だが多くの虎党は期待している。しかしこの試合で出場すらなかった。そういうことだ。

前半戦、阪神が快進撃を続けたのは彼の影響だ。それを否定する人はいないだろう。開幕のヤクルト3連戦は今回と同じ神宮球場。佐藤輝は2試合目に1号本塁打を放ち、チームを乗せた。あの3連勝から今季が始まっているのだ。

その残像があるからこそ「ここまで来たら例えあかんくてもテルやろ」とまで思う。周辺にはそう言うファンや記者連中も多い。こちらも、正直、そう思っている。失礼だが、この土壇場でロハスや島田海吏でいくのか、という気持ちだ。

だが矢野にすれば不振から抜け出す気配のない佐藤輝を使うのは難しいのだろう。まだ開き直っていないということかもしれない。指揮官が「あかんくても…」とはいかないだろうし、そこが難しく、モヤモヤするところだ。

それでも勝てない。とにかく打線が硬かった。大事な試合で1番近本光司が出塁できないのも厳しい。それでも、おかしな展開ではなかったと思う。失点したのは先発の高橋遥人だけ。馬場皐輔、小林慶祐は無失点でしのいだ。

攻撃面では不振の梅野隆太郎が3回、奥川恭伸から9球を粘る姿勢を見せた姿もヒントだ。「やるべきことをやる」ことでしか物事は動かない。いま指揮官がやるべきなのは流れを変えることだろう。そうなれば。もう。やっぱり佐藤輝の出番ではないか。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)