試合前、旧知の球団関係者と甲子園入り口で出くわした。「久々ですな。こっちが球場に来れないときも多かったしね。コロナ禍で」。そう話すと相づちを打ちながら「今年はなかなかキツいですね」。もちろん、このコラムのことだ。

虎番記者同様にこちらも球団関係者はもちろん、監督、一部の選手にはある程度、顔も名前も知られている存在だ。正直に言えば批判するのは心苦しい。チームはみんな努力しているのを知っているからだ。

それでも「今年はキツい」と言われるほど批判するときが多くなってしまう。当然ながらチームが不調だからだ。開幕からこんなに負けるとは想像していなかった。スアレスが抜けて苦戦するのは分かっていたが、ここまでとは…という感じがずっと続く。

前置きが長過ぎたがはっきり書きたい。なぜ8回に代走を出さなかったのか。ずっとその思いに支配されている。ガンケルと岸孝之の投手戦はともに7回無失点で降板。勝負の行方は終盤だ。そして阪神最大のチャンスは8回だった。

1死から長坂拳弥が左前打で出塁。よし、ここは代走で盗塁だ。そう思ったがベンチは動かない。代打・北條史也でエンドランの気配も見せたが結局、犠打。場面は2死二塁に代わった。今度こそ代走だろう。だが出ない。そして近本光司の打球が浅めに守っていた左翼手・西川遥輝の前に弾んだ。甲子園がもっとも盛り上がった瞬間。長坂も懸命に走ったが刺された。

ベンチには熊谷敬宥、植田海の代走要員が残っている。梅野隆太郎は抹消されているが坂本誠志郎に加え、片山雄哉も入れて捕手は3人制だ。代走は出せた。

「結果的にオレが行ききらんかったというのは受け止めてるけど。延長12回という難しさとその後に代走を出したいところもあったし。拳弥も遅いわけじゃないんで-」

虎番キャップたちの取材に指揮官・矢野燿大はそう説明した。延長勝負も頭をよぎったということだろう。だが、どう考えても8回に勝負をかけ、9回を岩崎優で抑える形が勝利に一番近いように思うのだが。

もちろん代走が出ていても、あのプレーでセーフになったかどうか。セーフになっていても結果的に勝てたかどうか。それは分からない。それでも、いつも書くが打てる手を打ったかどうか。そこが気になる。痛い競り負けだ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)