智弁学園(奈良)が八戸学院光星(青森)との壮絶な打撃戦に敗れ、初戦で姿を消した。

6点を追う6回に1年生4番の前川右京外野手が2本の適時打を放つなど、一挙7得点で大逆転。だが2人の1年生投手も甲子園の洗礼を浴び、3年ぶりの夏勝利は夢と消えた。前川の兄は津田学園(三重)4番の夏輝内野手(3年)。聖地で兄弟4番対決は実現できなかったが、残る4季で日本一を目指す。

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4番前川が狙うは、3打席連続タイムリーのはずだった。6点差を逆転したが、8-8に追いつかれた直後の8回1死二、三塁。壮絶な打撃戦に甲子園は異様な熱気に包まれ、1年生の肩に力が入った。「余裕がなく、冷静になれなかった。絶対打つという気持ちが空回りしてしまった」。高めのつり球に手を出し3球三振。「あそこで打てない4番は4番じゃない」。0点に終わった直後の9回、2点を勝ち越され終戦。ふがいなさに顔をゆがめた。

聖地での「兄弟対決」を夢見た夏だった。津田学園の4番前川夏輝内野手(3年)は実兄。学校は違うが兄弟で4番を張り合い、一緒に甲子園に出場できた。「いつも全力で野球をやっている」大きな存在。中学時代は野球で手を抜くと、「智弁に行っても3年間何もせんと終わるぞ」と厳しく叱ってくれた熱い兄だ。

高校入学後2カ月で「想像していなかった」という名門の4番に抜てきされた。夏の奈良大会開幕直後に調子を落とすと、見透かした兄から「プレッシャーはあるだろうけど、チームが勝てば3年生の夏は終わらないから」と背中を押された。7月29日、高田商との決勝で2安打。3年ぶり夏の甲子園出場に貢献し、前日28日に一足早く甲子園出場を決めた兄に続いた。

7日の静岡戦で2安打して初戦突破した兄からは「次はお前の番。(他校の)1年生も活躍してるからお前も負けんな」とエールをもらった。迎えた6点ビハインドの6回。1イニングで2打席連続タイムリーを放ち、7得点の大逆転劇を演出した。「兄弟対決はできなかったけど、兄には最高の夏に出来るように暴れてと言いたいです」。今夏の日本一は兄に託すが、自身の高校野球もあと4季ある。「どんな投手でも打てるように。三振したことを忘れずにやっていきたい」。苦くて濃い一夏の経験を力に変える。【望月千草】