「令和の怪物」が衝撃の全国デビューだ。U18W杯(30日開幕、韓国・機張)に出場する高校日本代表が26日、大学日本代表との壮行試合を行い、大船渡・佐々木朗希投手(3年)が先発。

1回を12球、2奪三振で無安打無失点に抑え、最速156キロをマーク。高校の公式戦では岩手大会敗退の18歳が、全国からえりすぐりの大学生打者を寄せ付けず、神宮からスターへの階段を歩き出した。

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ビールの売り子も足を止め、マウンドを見つめた。3万に近い野球ファンの鼓動を存分に高めさせ、佐々木は第1球を投げた。外角低め152キロの直球。法大の巧打者宇草がうまく打ち返すも、左翼遠藤が好捕。神宮の杜は興奮のるつぼと化した。

拍手喝采をBGMに、佐々木は投げた。2番小川には155→153キロと続け、この日最速の156キロを真ん中に投げ込み、空振りさせた。154キロ直球を挟んで、最後は134キロのフォークで空振り三振。3番柳町には直球とフォークでフルカウントとし、最後は外角低め152キロで空振り三振。「全力で無失点に抑えたい」。25日の会見で意気込んだ佐々木は、大学生の好打者たちを圧倒した。

大観衆の向こうには高層ビル群、そして建設中の新国立競技場。そばにはセミの羽根が落ちる夏のマウンドで、汗をぬぐいながら投げた。ついに全国のファンが注目する舞台に立った。5カ月前、3月28日は肌寒かった。真横の採石場にファウルが次々飛び込む千葉・富津の球場で、今年初めてブルペンに入った。ファン5人、記者1人。まだ表情は柔和だった。

1週間後にたたき出した163キロが、取り巻く世界を一変させた。どこに行っても注目され、厳しい報道規制もかかった。世界一をかけて異国の地で戦った後には、自らの運命を決めるドラフト会議が待つ。全国大会には出場経験がないにもかかわらず、野球ファンから注目を集める存在になった。

それでも簡単には動じない精神力で、この夜は大学生を封じた。「日本はまだ世界一になったことがないので、このメンバーで世界一になれるように頑張りたい」と誓う。少し首をひねりながらベンチへ戻った。まだまだ納得はしない。生まれ育った岩手から東京、そして海外へ。希代の才能を備える17歳の世界が、加速度的に広がっていく。【金子真仁】

◆U18W杯 世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催の18歳以下による世界大会。81年に始まり今回が29度目。日本が高校日本代表で臨むのは04年が最初で、今回が6度目。過去に優勝はなく、準優勝が最高成績。1次ラウンド(R)は2組各6チームで総当たり戦を行い、各組上位3チームがスーパーRに進出。スーパーRの上位2チームで決勝を争う。

◆佐々木朗希(ささき・ろうき)2001年(平13)11月3日生まれ、岩手県陸前高田市出身。高田小3年から野球を始め、11年の東日本大震災で被災。地元の大船渡へ進学。2年の6月に高校日本代表候補入り。今年4月、U18高校日本代表候補合宿の紅白戦で最速163キロをマークした。7月25日、花巻東との岩手大会決勝の登板を回避し甲子園出場なし。190センチ、86キロ。右投げ右打ち。