昨夏の甲子園優勝校の智弁和歌山が、今春センバツ優勝校で公式戦29連勝中だった大阪桐蔭に勝ち、06年以来、16年ぶり3度目の春近畿優勝を果たした。

阪神、巨人などでプレーした中谷仁監督(43)による、打者の目先を変える4投手の継投が的中。プロ注目で最速148キロの武元一輝投手(3年)も好救援で貢献した。大阪桐蔭は9安打2点止まり。再三、得点圏に走者を送ったが決定打が出ず、新チーム結成後、初黒星を喫した。

   ◇   ◇   ◇

当代最強校の前に、昨夏の王者が立ちはだかった。「どこまでうちの投手陣が耐えることができるのか、打線がどれだけしがみついていけるのか。今日は自分たちの力を知る最大のチャンスの試合だと思っていました」。快哉(かいさい)を叫びながら帰ってくるナインを、中谷監督は出迎えた。

必勝の作戦は“オープナー”。先発は2年の吉川泰地(たいち)。横手投げに近い投球フォームの左腕に3イニングを任せ、4回からは右上手投げの西野宙(そら=3年)につないだ。5回は左上手投げの橘本直汰(3年)に継投。6回から、最速148キロを誇る右の本格派、武元を送り込んだ。「前の3人がいい流れでつないでくれた。ゼロに抑える、勝つという気持ちで投げました」。145キロの快速球に、ドラフト候補は勝ちへの執念を込めた。2回以降追加点を奪えない苦戦を、攻めの継投で1点差勝ちにつなげた。

「相手は素晴らしい打線。ぼくも(捕手の)渡部も配球の引き出しがなくなってしまうのが見えたので、投手を代える手段が有効かなと思って行ったのはありました」と中谷監督。昨秋は県大会で敗れ、甲子園夏春連覇の夢は断たれた。夏連覇、その一点に集中したときから、中谷監督は「あのチームに勝てないと日本一はない」とナインに大阪桐蔭を意識させ、チームの成長につなげてきた。左右の投手陣ら異なる才能を大事に育て、大阪桐蔭に勝つ継投で結果にした。「みんなが活躍する、みんなが生きるチームになったら」。全員が戦力。大優勝旗をつかむため、目指す答えはそこにあった。【堀まどか】

○…1番打者の山口滉起外野手(3年)が、大阪桐蔭・前田のスライダーを先制の先頭打者アーチにした。167センチ、86キロの体格で、西武中村にあこがれる山口は、高校13号で自身5本目の先頭打者弾を「びっくりでした。スライダーが甘く来て反応で打ちました」と振り返った。この日の朝、ナインは中谷監督に叱られた。「寮の掃除がおろそかになっていて。そういうスキがあったら、大阪桐蔭に勝てない」と気を引き締めて臨んだ一戦で、殊勲弾を放った。