早実(西東京)の2年生左腕、エース中村心大投手が、投げて打ってチームを9年ぶりの16強に導いた。鶴岡東(山形)との投手戦は、0-0で迎えた延長タイブレークの10回、直前に足をつりながらも、1死満塁からサヨナラの右前適時打。同校の左腕投手の完封は1957年(昭32)夏の王貞治(2年=11回無安打無失点)以来67年ぶりの快挙だった。大社(島根)は第3回大会以来、107年ぶりの夏2勝。神村学園(鹿児島)は2年連続、岡山学芸館は5年ぶりのベスト16入りとなった。
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中村が主役の舞台だった。延長タイブレークの10回1死満塁。左太もも裏がつり治療したが、途中交代するつもりはない。大きな拍手を背に打席に向かった。「初球から振る。迷いはなかったです」。狙い通りに初球のスライダーを捉えると、打球はライトの頭上を超えた。「打った瞬間決まったと思ったのでうれしかった。サヨナラは打ったことないので初めての景色。自分だけの時間をつくり出せたと思います」。マウンドでは先発144球を投げきり、4安打で公式戦初完封。鳴りやまない大きな拍手は、紛れもなく中村が作り出した、中村だけの時間だった。
甲子園で覚醒した。立ち上がりからテンポよく130台後半の真っすぐとカットボールを投げ分けた。中盤からは変化球でカウントを整え、大先輩のソフトバンク王球団会長に並ぶ記録に「偉大な先輩。はっきりイメージはできないけど、このエースナンバーを背負った責任の強さ、偉大さは感じます」と胸を張った。
西東京大会の悔しさを糧にした。5試合で15四死球、22失点。「甲子園は0で抑えて勝ちたい」と大会後にフォームを修正。「体の回転に左腕が追い付いていない。キャッチボールから縦の回転をかけることを意識してタイミングを合わせた」と、真っすぐの質を上げた。7回2死一、二塁のピンチでは元立命大野球部助監督の父・秀典さん(49)の教えを思い出した。「好投手はピンチにも気持ちを整えて投げられる」。冷静に136キロ真っすぐで三ゴロに打ち取った。
父と兄・一心さん(現城西国際大2年)の影響で野球を始め、小さいころから捕手出身の父に球を受けてもらうのが何よりの楽しみだった。現在は父、母とも故郷の京都から東京へ居を移し、中村をバックアップする。「負けないのがエース。これからもチームを勝たせたい」。甲子園の舞台、主役の座は誰にも渡さない。【保坂淑子】
◆中村心大(なかむら・こうだい)2007年(平19)7月17日、京都市生まれ。西陣中央スポーツ少年団で野球を始め、京都ベアーズ。目標とする選手は、今秋ドラフトの目玉、関西大4年の金丸夢斗投手。趣味はスポーツ観戦。177センチ、83キロ。左投げ左打ち。
○…和泉実監督(62)は「こんなに成長した中村を見たことがない。頼もしいエース誕生」と、舌を巻いた。試合中は選手たちに「1-0で勝ったら、(中村は)うんと強くなるよ」と言ったという。06年駒大苫小牧(南北海道)との決勝。早実のエース斎藤佑樹と田中将大(現楽天)の投手戦を思い出し「マー君のすごさに斎藤が耐えて、2人で高め合った。今日は間違いなく(鶴岡東の)桜井君の投球に触発され、中村の集中力が高まった」と、相手左腕に敬意を示した。
○…一塁側アルプス席では早実の生徒、卒業生、ファンら約2800人の大応援団が熱い視線を送った。吹奏楽部は大会出場のため不参加で、卒業生が演奏を行った。80年夏の甲子園準Vメンバーで、ヤクルトなどで活躍した荒木大輔氏(60)の女房役だった城西国際大・佐藤孝治監督(62)の長女亜唯さん(24)も輪に加わった。「来られない現役生と、応援に来られなかった誕生日の父の分も届けたい」とエールを送った。
◆早実の完封 早実の完封は、春夏を通じ10年夏の鈴木健介(対倉敷商)以来だが、06年斎藤佑樹(2度)や80~82年荒木大輔(6度)ら、このところ右投げが続いた。早実の左腕では、57年夏の王貞治が寝屋川戦で春夏を通じ史上唯一の延長戦ノーヒットノーラン(延長11回)を達成して以来、67年ぶり。王も2年生だった。夏の完封&サヨナラ打は94年穐谷正人(中越3年)が浦和学院戦で記録して以来、30年ぶり2人目。延長戦や2年生以下では初の快挙だ。夏の下級生による延長戦完封は03年ダルビッシュ有(東北2年)が平安戦(11回)で記録して以来。早実が夏にサヨナラ勝ちしたのは、32年の和歌山中戦(スコア1-0)以来92年ぶりになる。

