<全国高校野球選手権:済々黌3-1鳴門>◇13日◇2回戦

 野球漫画「ドカベン」に登場した珍プレーが甲子園で“再現”され、済々黌(せいせいこう=熊本)が初戦を突破した。2-1で迎えた7回1死一、三塁。遊撃を襲ったライナーが好捕された後、一塁に転送され、併殺となったが、三塁走者の中村謙太二塁手(3年)は三塁に戻らず一気に本塁へ。3アウトよりも早くホームを踏み、生還が認められた。守備側の鳴門(徳島)のアピールがあれば入らなかった1点だが、済々黌はそれを承知で仕掛け、奪い取った。

 進学校らしい頭を使ったプレーだった。済々黌が野球規則を熟知した上で本塁に突入し、3点目をもぎとった。ホームを踏んだ中村謙は「あんまりヒットが打てないんで、そういう(頭脳)プレーで点をとろうとやってきた。真骨頂です」と言葉を弾ませた。

 7回にその場面はやってきた。1死一、三塁。2番西の当たりが遊撃をライナーで襲う。遊撃手は捕球するや、一塁に送って併殺を完成させた。一方、三塁を飛び出した中村謙は戻るどころか一気に加速した。「捕った遊撃手が一塁を見たんで、いけると思いました」。その足は一塁アウトより早く本塁を踏んだ。

 野球規則にあるアピールプレーの1つだ。中村謙にリタッチ(元いた塁に戻って触れ直す行為)はなかった。鳴門が三塁にボールを送ってアウトをアピールすれば、得点は認められなかった。アピールは守備側がフェア地域を離れる前まで。それも知っていた中村謙は「早く帰れと思ってました」。池田満頼監督(39)の思いも一緒だった。「さあ行こう」。鳴門に気づかせず、戻りを急がせようと、早めに、さりげなくベンチを飛び出した。

 昨秋、池田監督はナインにこう声をかけた。「頭を使う野球じゃないと勝てんけん。野球規則を読んで話し合え」。シートノックにアピールプレーも組み込んだ。中村謙は「あれでボールが三塁に送られたらしょうがない。分かってやったんです」。幸い?

 鳴門のアピールはなかった。森脇稔監督(51)は「私のミスです。一塁の方しか見てなかった。タッチアップなら三塁を意識しますが。一塁から三塁へ投げればよかったんです」と悔やんだ。

 練習したアピールプレーの場面には、これまで1度も巡り合わなかった。それが18年ぶりの甲子園でまず5回に1つ目があった。1死一、三塁で遊直。ホームインが3アウトより遅く、認められなかった。そして7回。狙い通りに1点を奪った。

 漫画「ドカベン」では1死満塁でのスクイズが投手への小飛球となり、三塁走者の岩鬼が生還した。中村謙はそれを小学時代に読んでいた。「(甲子園で)岩鬼になってました」。伝統あるユニホームを真っ黒にした中村謙がこういって笑った。【米谷輝昭】

 ◆「ドカベン」VTR

 夏の神奈川大会3回戦で「ドカベン」山田太郎(2年)の明訓が、好投手不知火擁する白新と対戦。0-0の延長10回表、1死満塁。明訓の5番微笑は初球スクイズも小フライとなって不知火にダイビングキャッチされ2死。この間に三塁走者岩鬼が本塁に滑り込み、一塁走者山田も飛び出した。不知火は一塁へ投げ一塁手が触球、山田がアウトとなり併殺で白新ナインはベンチに引き揚げると、明訓に1点が入った。

 白新側は第3アウト成立後、岩鬼の離塁が早かったとアピールして三塁でアウトにすることで、第3アウトを置き換え得点を無効にすることができたが、これを行わなかった。試合は明訓が1-0で勝利した。