<全国高校野球選手権:倉敷商5-1秋田商>◇18日◇3回戦

 秋田商が倉敷商に敗れ、35年以来となる8強入りを逃した。右腕エース近藤卓也が本調子でなく、3回1/3、6安打4失点で降板。後を受けた阿部勇星投手(ともに3年)が粘投したが、打線が相手投手の変化球に苦しみ、打ち崩すことができなかった。それでも、春先の低迷を乗り越えて、チームは急成長。大舞台で15年ぶりの1勝を挙げ、後輩にベスト8の夢を託した。

 カクテル光線に照らされた秋田商ナインは、敗者とは思えないすがすがしい表情をしていた。半世紀以上遠ざかる8強への壁は分厚く、そして高かった。しかし、全てを出し切った充実感が全身を包み込んでいた。腰椎分離症を抱えながら出場した三浦健太郎主将(3年)は「(8強入りに)何が足りなかったか、思い付かないくらい一生懸命やった」。そう言って、甲子園の黒土にまみれたユニホームに目をやった。

 1回、エース近藤が先頭打者本塁打を献上した。その裏に「自分で取り返すつもりだった」と自らの適時打で追いついたが、4点目を失った4回途中で降板した。打線は、倉敷商・西隆聖(3年)の変化球に苦戦。右打者はスライダー、左打者は必殺のシンカーに翻弄(ほんろう)され、10三振を喫した。第3試合が雷雨で2時間18分中断し、試合開始は予定より2時間以上遅れた。それでも、太田直監督(33)は「しっかり(室内練習場で)打ち込めたし、影響はない。打って勢いに乗りたかった」と言い訳はしなかった。真っ向勝負を挑んでの敗北に、悔いはなかった。

 「あんな弱いチームが1勝できたんだから合格」(三浦)。4カ月前、甲子園なんて夢のまた夢だった。練習試合で結果が出ず、昨秋の県大会で勝った明桜にも完敗。新チーム始動時に掲げた「甲子園8強」は、ぼやけていた。三浦主将は、目標への道筋を確かめるため、ミーティングを開いた。1時間、ナインは熱く話し合い、泣いた。和田光平中堅手(3年)は「レギュラー陣がもっと頑張らないとダメ」と涙を浮かべて訴えかけた。

 選手の目の色が変わった6月、太田監督は言った。「今年は受けないから、お前たちも野球にかけろ」。例年、秋田大会の準決勝、決勝と日程が重なる教員採用試験のことだ。柳田一樹副将(3年)は「やるしかないと思った。監督を絶対に甲子園に連れて行く」と思いを受け取った。決勝では2連覇中の能代商に9回2死から逆転。気付けば、確固たる意志と絆でつながった集団へと変わっていた。

 太田監督は「苦しみ抜いてつかんだ甲子園。1プレーごとに成長していった。こういうチームはなかなか作れない」と目を細めた。どん底から、最後の16校まではい上がった秋田商ナインの目に、涙はなかった。伝統のユニホームに新たに宿された魂は、後輩たちに受け継がれていく。【今井恵太】