<高校野球滋賀大会:彦根東3-1近江兄弟社>◇29日◇決勝◇皇子山

 ひこにゃんのお膝元から夏初出場だ。滋賀大会は彦根東が近江兄弟社を破り、夏の甲子園初出場を決めた。激しい雨の中、エース平尾拓也(3年)が5安打1失点完投。人気ゆるキャラの「ひこにゃん」や、陸上男子の桐生祥秀(17=洛南)を生んだ彦根市から、創立137年の伝統校が新たな歴史を刻んだ。

 1894年(明27)の創部から120年、ついに生まれた夏の甲子園投手だ。黒土まじりの雨水をはねあげながらの112球。平尾は「ボールが滑ってもうストレートしか投げられなかった。1球1球魂を込めて投げました」。表情をほとんど変えることのない17歳も、言葉は熱かった。

 試合前から雨。後半になるほど雨脚は強まり、マウンド上で平尾が右足を踏み込む部分に水たまりができた。「投げるたびに水がかかって。これだけの雨の中で投げたのは初めてでした」。高校最後の夏の決め球にと覚えたチェンジアップも使えなかった。8、9回は球が抜け、先頭打者を四球で歩かせた。

 「焦ったら負けや」と自分に言い聞かせた。昨夏は3回戦の水口戦で途中降板し、延長12回に決勝点を奪われた。最後まで投げきる体力、気力を課題にした。「守っているみんなの顔を見たら落ち着きました」と切り替えも身につけた。

 7回2死一、二塁は空振り三振で切り抜け、先頭に四球を与えた8、9回は打たせて後続を断った。「平尾の最大の長所は精神力。ここというところで全力で投げられる」と捕手の武田圭太(3年)は言う。春の県大会で30イニング連続無失点。夏は3回戦以降の4試合で完投し北大津、滋賀学園の強豪もねじ伏せた。

 学校のある彦根城の城主・井伊家は「赤備え」で知られる。今はひこにゃんがかぶる赤いカブトになったが、戦国時代は「井伊の赤鬼」と恐れられた勇猛果敢な軍団。ひこにゃんが散歩する城の一角で平尾らナインは赤鬼魂を受け継ぎ、夏の初切符を勝ち取った。

 滋賀を制したのは65年ぶり5度目でも、過去4度は1県1代表制の前で甲子園出場はかなわなかった。「夏出場は希望の光と思おうと選手には話してきました」と村中隆之監督(45)。閉会式の後、応援に駆けつけていた09年春出場時の監督、今井義尚さん(53)の姿を見つけると、村中監督は男泣きに泣いた。【堀まどか】

 ◆平尾拓也(ひらお・たくや)1996年(平8)2月27日、滋賀・八幡市生まれ。武佐小3年から「武佐イーグルス」で投手として野球を始め、八幡東中では軟式野球部に所属。彦根東では1年夏からベンチ入りし、秋から背番号1。自己最速は137キロ。好きな投手は巨人杉内。171センチ、70キロ。左投げ左打ち。

 ◆彦根東

 1876年(明9)創立の県立校。生徒数は954人(女子412人)。野球部は1894年創部。部員数は66人。甲子園出場は春3度。主なOBは評論家の田原総一朗。所在地は彦根市金亀町4の7。善住喜太郎校長。◆Vへの足跡◆2回戦9-3長浜北星3回戦3-1北大津準々決勝9-5滋賀学園準決勝10-0八幡工決勝3-1近江兄弟社