<高校野球宮城大会:仙台育英6-5柴田>◇7月31日◇決勝◇Kスタ宮城

 仙台育英が柴田にサヨナラ勝ちし、2年連続の甲子園出場を決めた。1回に5点を奪われたが、上林誠知主将(3年)のソロなどで追い上げ、加藤尚也内野手(3年)の適時打で8回に同点。9回2死満塁で、6番小林遼捕手(3年)がサヨナラの押し出し四球を選んだ。8強で敗れた今春センバツ以降は、上林ら主力にけが人が続出したが、控え組や加藤ら仕事人が結果を出した。一体感、層の厚みが増した仙台育英が、東北勢初優勝を目指し、甲子園に乗り込む。

 仙台育英ナインは、柴田の選手よりも泣いていた。9回2死満塁。サヨナラの押し出し四球を選んだ小林遼のもとに、目に涙を浮かべた仲間が駆け寄っていく。昨秋の明治神宮大会、今春の東北大会を制した王者も、夏は一筋縄ではいかなかった。6試合中3試合が逆転勝ち。準々決勝の大崎中央戦に続き、この日も0-5からひっくり返した。クールな上林主将でさえ「こんな試合、経験したことがない。野球で初めて泣いた」と感極まった。苦しんだ分、喜びも大きかった。

 優勝候補と目されたセンバツは8強止まり。夏の全国制覇を目指して再スタートを切ったが、春以降は主力がけがに悩まされた。上林、熊谷敬宥、菊名裕貴、水間俊樹、小林遼(いずれも3年)…。佐々木順一朗監督(53)の夫人が富士山に向かって日本一を祈願した一方、長野・善光寺へ厄よけ参りに行ったほどだった。

 窮地を救ったのは、チームを縁の下で支える男たちだった。代打の切り札だった5番小野寺俊之介内野手(3年)は東北大会で結果を出し、今大会は一塁で全試合に先発。この日は1回に2失策したが、4回に反撃の左前適時打を放つなど2安打と意地を見せた。「春は1人1人が経験を積めて、成長できた。打って取り返そうと思った」。東北大会直前、けが人を抱える上に約1週間練習ができなかった。そんな中、小野寺俊や控え捕手だった福田義基(3年)らの活躍で優勝。“非常事態”が、チームを強くした。

 はい上がってきた苦労人も気を吐いた。8回2死三塁、同点の中前打を放った8番加藤は「高校野球をしてきた中で、1番うれしい」と声を弾ませた。新チーム始動時は控え。声を出せるムードメーカーとしてレギュラーの座をつかんだ。けが人続出の時は「最悪の雰囲気でどうしたらいいか分からなかった」が、試合に出続けて周囲を盛り上げた。佐々木監督は「(同点の場面は)誰もが代打と思っただろうが、全部任せた。(守備で)一塁まで投げられないし、小野寺が守れないのもみんな知っている。彼らが打ったのがうれしい。こんな劣勢からのサヨナラは記憶にない」と喜んだ。

 8回に1点差に迫るソロを放った上林が、大黒柱であることは間違いない。上林が打てば雰囲気が変わるし、負けない。ただ、周りも「上林に頼りすぎないように頑張ろう」とレベルアップしてきた。課題だった投手陣も、今大会の自責点はゼロと力をつけている。“おいしいところ”を主将が持って行けるのも、仲間のお膳立てがあってこそ。「優勝旗を持って帰ってきたい」と上林を先頭に、着実に力をつけた仙台育英が東北勢の悲願を達成すべく甲子園に乗り込む。【今井恵太】